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イーサリアム現物ETFは上場が承認されるか

暗号資産(仮想通貨)ビットコインの価格が大幅に上昇している。4日のアジア時間の取引で6万4,000ドルを突破し、2021年に付けた史上最高値の6万5,000ドル台にほぼ並んだ。

今年1月にビットコイン現物ETFの取引が始まったことで、ビットコインの価格上昇に弾みがついた。さらに、米国株高にも表れているように、米国経済のソフトランディング(軟着陸)観測に支えられた金融市場の楽観ムードも、ビットコインの価格に追い風となっている。

ビットコインの価格は2月に43%も上昇した。しかしそれ以上に価格が上昇したのが暗号資産の時価総額で第2位のイーサリアムで、46%の上昇となった。注目されているのは、イーサリアム現物ETFの上場の可能性だ。米証券取引委員会(SEC)は昨年10月に、6本を超えるイーサリアム先物ETFの申請を承認したが、これらはあまり関心を集めていない。しかし現物ETFへの関心はかなり高い。

SECは今年の1月10日に、ビットコインを運用対象とする現物ETF11本を承認した。これが投資家の資金を集め、ビットコインの価格上昇の原動力となった。

そこで、2匹目のどじょうを狙うかのように、ブラックロックやフィデリティ・インベストメンツをはじめとする10社以上が、米国で初となるイーサリアム現物ETFの上場を申請した。それらが承認されれば、ビットコイン現物ETFと同様に、各社は投資家から運用手数料を得ることができる。

資産運用会社のヴァンエックとアーク・21シェアーズからのETF上場申請についてSECが判断を下す最終期限は5月23日である。上場が認められるかどうかの判断は、この2社が最初となる。

SECはビットコイン現物ETFをしぶしぶ認めた

SECが1月10日、ビットコイン現物ETFの上昇を認めた際には、ゲンスラー委員長は、「本日、特定の現物ビットコインETFの上場と取引を承認したが、ビットコインを承認または推奨した訳ではない。投資家は、ビットコインやその価値が暗号通貨に関連付けられている商品に関連する無数のリスクについて引き続き注意する必要がある」と強く釘をさした。SECは、ビットコインの現物ETFの上場を本当は承認したくなかったが、「SECが承認しない理由を十分に説明することができていない」とする裁判所の判断を受けて、しぶしぶ承認したというのが実情だ。

イーサリアムは法的あるいは財務上の位置付けでビットコインと類似点があることから、SECは同様のパターンで現物ETFを承認するとの見方がある。

イーサリアムのステーキングが承認の鍵を握るか

他方、イーサリアムの時価総額はビットコインの4割程度にとどまることや、値動きがより荒く、価格操作の対象になる恐れがある点などが、異なる点と言える。またSECのゲンスラー委員長は一貫してビットコインをコモディティ(商品)と表現しているが、イーサリアムが証券なのかコモディティなのかは明言していない。イーサリアムがどちらに区別されるかによって、イーサリアムの監督機関はSECか米商品先物取引委員会(CFTC)かに分かれる。そうした判断も、SECのイーサリアム現物ETFの上場承認に影響を与える可能性があるだろう。

さらにSECが承認の可否の判断に影響を与えそうなのが、イーサリアムで行われている「ステーキング」だ。暗号資産の「ステーキング」とは、投資家が事業者に暗号資産を預け入れ、事業者は得られた報酬を投資家に分配する仕組みだ。暗号資産を売買しなくても、預けている間に高い報酬が得られる。

ただしこの枠組みは証券取引に相当し、またそれを扱う事業者はカストディ業務を行っているとSECは考えている。そこで、SECは昨年2月に、暗号資産交換業者のクラーケンに米国内でのステーキングのサービス提供を停止するよう命じた。その数か月後には、同業のコインベース・グローバルのステーキングが未登録証券に該当するとして、SECは同社を提訴した。

承認期限の5月23日に注目

SECがイーサリアム現物ETFを承認する一方で、そのステーキングは認めない可能性がある。また、ステーキングを問題視して、イーサリアム現物ETF自体を認めない可能性もあり、現時点ではSECがどのような判断を示すかは明らかでない。

今後の暗号資産の価格の行方に影響を与えるのは、4月と見込まれるビットコインの半減期、つまりビットコインの発行量が半分となることだ。それはビットコインの需給を改善させるとの観測から価格押し上げに貢献する可能性がある。その後の注目点は、5月23日のイーサリアム現物ETFの承認期限である。その行方は、イーサリアムのみならず、暗号資産の価格全体に大きな影響を与えることになるだろう。

(参考資料)
"Hot New Bitcoin Funds Could Soon Have Rivals(熱いビットコイン現物ETF 早くもライバル出現か)", Wall Street Journal, February 29, 2024

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。