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スーパーチューズデーは予想通りにトランプ前大統領が圧勝

アメリカ大統領選挙に向けた野党・共和党の大統領候補者選びは、15州で予備選・党員集会が行われ、指名獲得に必要な代議員の3分の1程度が決まる5日のスーパーチューズデーで山場を迎えた。トランプ前大統領は15州のうち14の州で勝利を確実にし、指名獲得は揺るがない状況となった。

トランプ前大統領と候補者選びを争ってきたヘイリー元国連大使は、現時点では選挙戦を続けるかどうかに言及していない。

トランプ前大統領は今月半ばまでには指名を確実にし、本選挙で民主党のバイデン大統領との一騎打ちとなる方向だ。

良好な経済環境の下でも現職のバイデン大統領への支持が高まらない

米国経済について、有権者の間で楽観的な見方が強まっている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)の最新世論調査によると、過去2年間で経済状況が改善したと答えた有権者の割合は約31%となり、昨年12月時点の調査から10ポイントも上昇した。またバイデン大統領による物価対策を支持すると回答した有権者は約37%となり、12月の調査から7ポイント上昇した。全体的な経済政策を支持すると答えた割合も、前回の調査から4ポイント上昇して40%に達している。

このように、現在の経済状況や、バイデン大統領の経済政策についての有権者の評価は高まっている。しかしそれが、大統領選挙に向けたバイデン大統領の支持率の浮揚にはつながっていない。

ニューヨーク・タイムズ紙が3月2日に公表した、2月下旬実施の世論調査の結果によると、バイデン大統領を「好ましい」と答えた人の割合は、2020年大統領選前の52%から38%へと大きく低下している。

さらにバイデン大統領は、トランプ前大統領に対しても、支持率で後れをとっている。ニューヨーク・タイムズ紙の調査によると、トランプ前大統領の支持率が48%であるのに対して、バイデン大統領の支持率は43%にとどまっている。大差とは言えないものの、12月の調査時点での2ポイント差から、今回は5ポイント差へとわずかながら開いている。

高齢という弱点を巡る争いに

バイデン大統領の不人気の要因は、イスラエル、パレスチナ問題でのイスラエル寄りの姿勢が、アラブ系や若年層などから強く批判されていることもあるが、それ以上に高齢であることが挙げられる。

WSJの調査によると、81歳のバイデン大統領は再選を目指すには高齢すぎると回答したのは約73%にも達する。他方、77歳のトランプ前大統領が再びホワイトハウスを目指すには高齢すぎると回答したのは52%と半数を超えるものの、バイデン大統領よりは20ポイントも低い。

ただし、回答の割合は昨年8月時点と比べて、バイデン大統領が同じ水準であったのに対して、トランプ前大統領は5ポイント上昇しており、幾分差が縮まっている。

今後は、両者が高齢という弱点をどの程度抑えることができるのか、を巡る争いの構図となっていくことも考えられる。

米連邦最高裁はトランプ前大統領の立候補を認める判断

バイデン大統領にとっては、トランプ前大統領以外の人物と比較された場合に、高齢という弱点がより際立つことになる。

米連邦最高裁は「スーパーチューズデー」を前日に控えた3月4日に、米大統領選に向けた共和党予備選でトランプ前大統領の立候補資格を認めなかったコロラド州最高裁の判決を破棄し、立候補を認める決定を下した。コロラド州の最高裁は昨年12月に、トランプ前大統領が2021年の米議会占拠事件に関わったと認定し、反乱に関与した人物が官職に就くことを禁じた米国憲法修正14条3項に抵触すると判断した。これに対してトランプ前大統領は連邦最高裁に上訴していた。

連邦最高裁は「連邦政府の高官や(大統領)候補に対する14条3項の規定を執行する責任は州にはない」と判断し、また判事らは全会一致で、14条3項を各州が施行することはできないとの判断を示した。コロラド州だけでなく、メーン州とイリノイ州でも出馬を認めない判断が先に示されていたが、今後、それらは認められなくなる。他方で連邦最高裁は、占拠事件を巡るトランプ前大統領の関与については言及しなかった。

独立系や無党派の大統領候補者もバイデン大統領の再選に逆風

連邦最高裁の判断は、トランプ前大統領にとって大きな追い風となったが、反面、バイデン大統領にとっては強い逆風になったとは言えない。仮に、連邦最高裁の判断によってトランプ前大統領に出馬の道が閉ざされ、共和党の候補指名をめざすニッキ―・ヘイリー元国連大使と戦った場合には、ニューヨーク・タイムズ紙の調査では、バイデン大統領の支持率が37%、ヘイリー氏が46%で、差は9ポイントにまで広がるのである。

同様に、大統領選挙で独立系候補が出馬する場合には、高齢というバイデン大統領の弱点がより際立つ可能性がある。

WSJの調査によると、独立系や無党派の大統領候補者が加わると、バイデン大統領はトランプ前大統領よりも多くの支持を奪われる結果となっている。

彼らは依然として多くの州で候補者名簿に載るためのプロセスを踏んでいる途中で、全米でそれを実現できるかどうかはまだ不透明だ。そうした独立系や無党派が大統領選挙の候補となるかどうかも、バイデン大統領の再選の成否に大きな影響を与えることになる。

(参考資料)
"Voters Are More Upbeat on Economy, but Biden Gets Little Benefit, WSJ Poll Shows(米経済の悲観論後退、バイデン氏は支持伸び悩み=WSJ調査)", Wall Street Journal, March 4, 2024
「米世論調査、際立つバイデン氏の不人気 トランプ氏がリード広げる」、2024年3月3日、朝日新聞速報ニュース
「トランプ氏、立候補資格認められ「非常に重要な決定」と歓迎…「スーパーチューズデー」前に追い風」、2024年3月5日、読売新聞速報ニュース
「米連邦最高裁、トランプ氏の予備選参加認める 大統領選」、2024年3月5日、日本経済新聞電子版
「最高裁判断にバイデン氏も安堵か トランプ氏再戦に勝機」、2024年3月5日、日本経済新聞電子版

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。