&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

物価上昇率の着実な低下基調に変化はない

米労働省が12日に発表した2月CPI(消費者物価指数)は、前年同月比+3.2%と事前予想の同+3.1%を小幅に上回った。また、基調的な物価動向を示す食料・エネルギーを除くコアCPIも前年同月比+3.8%と、同じく事前予想の同+3.7%を上回った。ただし、コアCPIの前年同月比上昇率は、前月の同+3.9%を下回っており、2021年5月以来の低水準となった。

2月は中古車の価格が前月比+0.5%と上昇したことなどから、コア財(除く食料・エネルギー)は前月比+0.1%と4か月ぶりに上昇に転じたが、これは前月に大きく下落した反動という側面が大きく、下落基調は変わっていないだろう。

他方、サービスコア(除くエネルギー)は、前月比+0.5%と前月の同+0.7%から上昇幅は縮小した。帰属家賃の基準改定の影響ともされるが、前月は家賃が前月比+0.6%と大きく上振れたが、2月には同+0.4%と従来のトレンドに戻った。また、医療サービスの価格も前月比-0.1%と下落に転じた。

パウエル議長が注目しているとされる家賃を除くコアサービス価格、いわゆるスーパーコアも、1月の前月比+0.8%から、2月は同+0.5%へと大きく鈍化したとみられる。

このように、2月のCPIは事前予想を上回ったとはいえ、物価上昇率が着実に低下傾向を歩んでいることを確認させるものとなっている。また、先行きの物価に大きな影響を与える賃金上昇率も低下傾向を辿っている。FRBが重視するコアのPCEデフレーターは1月に前年同月比+2.8%であった。2月にはさらに低下する可能性が高く、米連邦準備制度理事会(FRB)の2%の物価目標水準に近い将来達することが視野に入ってきている。

日米金融政策のずれが際立つ

2月CPIは、先行きのFRBの利下げ見通しに大きな影響を与えていない。市場は、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げをメインシナリオにしてきたが、CPI発表後もそれに変化はない。市場は6割程度の確率で、6月のFOMCで0.25%の利下げを予想している。さらに、年末まで3回の利下げが予想されている。

実際には、利下げの開始が6月ではなく9月に後ずれする可能性は残されている。その場合には、年内3回ではなく2回の利下げになると予想する。しかし、いずれにしても年後半にFRBが利下げに踏み切る可能性はかなり高い。

他方で、日本銀行は来週の3月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策解除に踏み切る可能性が高まっている。FRBが近い将来に利下げを実施する可能性が高まる中、日本銀行が利上げを実施するのは、かなり異例のことである。それは日米金利差縮小の観測から、為替市場では思いのほか円高が進むきっかけとなる可能性があるだろう。

日本銀行がマイナス金利解除に踏み切った直後というよりも、その後に日本銀行が比較的迅速に追加利上げを行っていくとの観測が浮上する時点で、円の巻き戻しが急速に進み、株式市場にも強い逆風になる可能性を見ておきたい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。