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普通預金金利は0.001%から0.02%に20倍

日本銀行は3月19日にマイナス金利政策の解除を決め、無担保コールレート翌日物の誘導目標を0~+0.1%に設定した。短期金利は0.1%ポイント程度引き上げられる。

この措置を受けて、三菱UFJ銀行と三井住友銀行は19日中に、普通預金の金利を現在の0.001%の20倍に相当する0.02%に引き上げることを決めた。みずほ銀行とりそな銀行、三井住友信託銀行も引き上げに動く可能性が高い。3メガバンクが普通預金の金利を引き上げるのは、日本銀行が前回利上げした2007年以来17年ぶりとなる。

大手銀行は、マイナス金利政策が導入された2016年2月に、普通預金金利を0.02%から0.001%に引き下げていた。日本銀行が短期金利(無担保コールレート翌日物)をマイナス金利政策導入前の水準に戻すのに合わせて、銀行も普通預金金利をマイナス金利政策導入前の水準に戻す。

普通預金金利引き上げで個人の利子所得は841億円増加

個人の普通預金総額は442.5兆円(2023年3月末、銀行・信用金庫の合計)だ。その預金金利が一律0.001%から0.02%に引き上げられる場合、個人の普通預金の金利収入は、年間841億円増加する計算となる。これは、雇用者報酬の300.5兆円(2023年)のわずか0.03%に過ぎず、日本銀行のマイナス金利政策解除が個人の利子所得に与える影響はかなり小さい。

他方、マイナス金利政策解除を受けて、三菱UFJ銀行は定期預金金利についても、10年で現行の0.2%から0.3%に引き上げる。各行ともに、長期金利の上昇を受けて定期預金金利はこれまでも引き上げてきており、マイナス金利政策解除を受けた対応には、かなりのばらつきが生じるとみられる。

ただし、仮に各行が三菱UFJ銀行と同様に、マイナス金利政策解除を受けて定期預金金利を0.1%ポイント引き上げる場合には、個人の利子所得は2,163億円増加する計算となる。今回のマイナス金利政策解除が個人の利子所得に与える影響については、各行の定期預金金利の引き上げの動きがより注目される。

短期プライムレートは据え置き

他方、今回のマイナス金利政策解除が個人の住宅ローンの金利に与える影響は小さいとみられる。住宅ローン利用者の約7割が利用しているとされる変動型金利は、短期プライムレート(短プラ)と連動して動く傾向がある。短期プライムレートとは、金融機関が企業にお金を貸し出す際の「最優遇貸出金利」のうち、1年以内の短期貸出金利の基準となるものだ。

三菱UFJ銀行と三井住友銀行は、マイナス金利政策解除を受けても、この短期プライムレート(1.475%)を据え置くことを決めた。このため、各行が定める変動型住宅ローンの金利は大きく変化しないとみられる。また、短期プライムレートに連動する企業向け貸出金利も大きく変動しないだろう。

短期プライムレートの決定要因は明らかにされていないが、無担保コールレート翌日物を中心に、銀行の短期の資金調達コストの変化で決まる側面が強い。短期プライムレートが最後に下がったのは、日本銀行が政策金利(無担保コールレート翌日物の誘導目標)を0.3%程度から0.1%程度に引き下げた2009年だ。

しかし、2016年に日本銀行がマイナス金利政策を導入した際には、短期プライムレートは据え置かれた。企業向け貸出や住宅ローン金利が一段と下がって、銀行の収益に悪影響を与えることに配慮したためではないか。その際に、短期金利が引き下げられたにもかかわらず、短期プライムレートの引き下げは送られたことから、今回、短期金利がそれ以前の水準まで引き上げられても、短期プライムレートの引き上げは見送られたのだろう。

今回のマイナス金利政策解除の影響は小さい

日本銀行がこの先政策金利の追加引き上げに動く際には、短期プライムレートは引き上げられ、住宅ローン変動型金利や企業向け貸出金利がそれに連動して上昇し、家計や企業の経済活動に一定程度影響が出ることになるだろう。金利上昇が、国民生活や経済にどの程度の影響を生じさせるかは、この先の日本銀行の利上げ幅に左右される。

ただし、今回のマイナス金利政策解除については、短期金利の引き上げ幅がわずかであり、また長期金利が目立って上昇していないこと、短期プライムレートが据え置かれるとみられることから、国民生活や経済への影響はかなり限定的と言えるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。