国際協調の枠組みに円安阻止の活路を見出す
ワシントンで17日から始まったG20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議にあわせて、G7(先進7か国)財務相・中央銀行総裁会議が開かれた。G7では、為替(安定)に関するコミットメントが確認されたうえ、声明文には、日本の主張に沿って為替の文言が盛り込まれたことを、神田財務官が明らかにした。これを受けて為替市場では、1ドル154円台後半から一時153円台まで円安の修正が進んだ。国際協調によるドル高抑制への期待が生じたためだ。
17日には、日米韓3か国の初めての財務相会合が開かれ、「最近の急速な円安やウォン安に関する日韓の深刻な懸念を認識」し、為替市場の動向で緊密に協議を続けることで一致した。イエレン米財務長官は、円とウォンの下落を巡る両国の懸念に留意する考えを示した。
1ドル152円の防衛ラインを超えて円安に歯止めがかからない状況の中、日本の当局は、国際協調の枠組みに、円安阻止の活路を見出そうとしている。
ドル独歩高抑制に向けた国際協調の機運はまだ熟していない
ただし、G7声明に為替の文言が盛り込まれることは異例なことではない。例えば、昨年10月のG7声明には、「我々は、2017 年5 月の為替相場についてのコミットメントを再確認する」との文言が盛り込まれた。2017 年5 月の為替相場についてのコミットメントとは、「我々は、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認する」というものだ。
米国では、大幅利上げが実施されたにもかかわらず、経済環境は安定を維持しており、またその結果として、インフレ率の低下ペースが鈍ってきていることから、利下げ時期が後ずれしている。その結果、世界では「ドル独歩高」傾向が強まっている。
ドル高は、日本のみならず、多くの国が懸念するところだ。特に欧州諸国は、厳しい経済状況の下で金融緩和に動こうとしているが、対ドルで自国通貨安が進めば、物価上昇率の低下の妨げとなり、金融緩和が思うように行えなくなる恐れがある。それは景気の悪化リスクを高めてしまうだろう。
また、ドル高が行き過ぎれば、ドル急落のリスクも高まることになる。そうなれば、米国以外の国では貿易決済に支障が生じる、ドルを保有する金融機関の財務に打撃となる、など弊害も大きくなる。そこで、さらなるドル高は多くの国で懸念されているところとなっている。しかしながら、各国が協調してドル高の是正を米国に強く求めるほどにはまだ機は熟していない。
為替介入実施は近いか
日本の当局が、日米韓財務相会合やG7で為替安定についての議論を主導しているのは、国際協調の枠組みを通じて、何とか円安に歯止めをかけたいという狙いがある。
一方で、仮に日本が円買いドル売りの為替介入に踏み切る場合には、それはG7など国際協調の枠組みのなかでの行動であることを予め確認しておく、いわば為替介入の地均しという側面もあるだろう。当局は、目先のところは、G7、G20など為替安定を巡る国際協調の効果を見定めるだろう。しかし、期待したほどのドル高円安の抑制効果が見られない場合には、近いうちに為替介入に踏み切る、と見ておきたい。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。