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FOMCは想定内の内容に

日本時間の5月2日早朝に、ドル円レートは1ドル157円台から一時153円台まで円が急騰した。1時間足らずでドル円レートが4円程度も動くのは、4月29日と同様に、政府の為替介入が実施されたことが強く疑われる状況だ。政府は、為替介入の有無を明らかにしていないが、これも4月29日と同様であり、いわゆる「覆面介入」の可能性が考えられる。

米国時間の5月1日に、米連邦公開市場委員会(FOMC)が行われたが、予想通りに政策変更は見送られた。足もとの経済指標、物価指標の上振れを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測は後退していた。FOMCでさらなる利下げの先送りを示唆するメッセージが出れば、再び1ドル160円に向けて円安が進むきっかけとなる可能性があった。

パウエル議長はFOMC後の記者会見で「ここ数か月、物価上昇率2%の目標達成に向けて進展していない」と指摘し、利下げの開始時期が遅くなる可能性を示唆した。しかしこれは概ね予想通りの内容、あるいは事前に警戒していたほどの内容ではなかった。さらにパウエル議長は、FRBの次の動きが利上げとなる可能性は低い、と述べたことが注目された。そのため、FOMC及びパウエル議長の記者会見後には、円がやや買い戻された。

「円の押し上げ介入」に戦略転換か

日本政府は、FOMCを受けて再び円安の流れが強まれば、米国市場でドル売り円買い介入に踏み切る準備をしていた、と推察される。しかし実際にはやや円高に振れたことから、それを受けて戦略を転換した可能性が考えられる。

つまり、市場の流れが円高に振れたタイミングを捉えて、「円の押し上げ介入」の実施を決めた可能性があるだろう。円安の勢いが強い際には、ドル売り円買い介入を実施しても、その影響は短期間で市場に吸収されてしまう可能性がある一方、一時的に円高の流れに転じたタイミングを逃さずに、「円の押し上げ介入」を実施すれば、比較的容易に円高を進めることが可能となるためだ。

政府と日本銀行の連携が再び確認されるかに注目

今回為替介入が行われた場合でも、それで円安の流れを大きく変えることは難しい。為替介入は時間稼ぎでしかないからだ。FRBの利下げ観測が再び強まるなど、米国側の環境が変わらない限り、円安傾向は続きやすい。

ただし、日本政府の介入に加えて、日本銀行が金融政策を判断する上で、為替動向に配慮するなど、政府と日本銀行の連携強化が確認されれば、円安抑制効果は一定程度期待できるだろう。先般の日本銀行の金融政策決定会合及びその後の総裁記者会見で、円安阻止に向けた政府と日本銀行の連携への期待は大きく後退してしまった。日本銀行が再び連携を強調する情報発信を行うかどうかが次の大きな注目点となる。

政府は当面は為替市場を静観するだろう。再び1ドル160円前後に円安が進むまでは、為替介入は見合わせるのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。