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バイデン陣営は激戦州3州にリソースを投入

11月の米国大統領選挙の行方は依然混沌としているが、バイデン大統領はもはや圧倒的勝利を目指すのではなく、僅差であっても勝利できるよう、鍵を握る激戦州での選挙活動に注力している。それが、「青い壁(青は民主党のイメージカラー)」と呼ばれるミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシンの3州だ。この3州で選挙人の44人を獲得すれば、バイデン大統領は再選に必要な選挙人270人(選挙人全体の538人の過半数)の獲得に近づくことができる。

この3州は、伝統的には民主党支持者が多く、2012年の大統領選挙ではオバマ前大統領がいずれも大差の得票率で勝利した。しかし2016年の選挙では3州ともにトランプ前大統領が僅差の得票率で勝利し、2020年の選挙ではバイデン大統領が僅差の得票率で勝利している。

「サンベルト」と呼ばれる南部のジョージア、ノースカロライナ州や、西部のアリゾナ、ネバダ州なども激戦州であるが、世論調査によると、この4州では共和党候補のトランプ前大統領が大きくリードしており、バイデン大統領がこれを覆すのは難しい。

他方、「青い壁」3州については、米紙ニューヨーク・タイムズとシエナ・カレッジが先に行った、第3党候補を含む対決を想定した世論調査では、バイデン大統領とトランプ前大統領の支持率が概ねきっ抗しているため、バイデン大統領はこの3州での勝利に集中する戦略に傾いているのである。

資金面で優位に立つバイデン大統領の苦戦は続く

今年に入ってバイデン大統領がこの3州を訪れた日数は合計で14日と、他州の訪問と比べて突出している。

資金面では、バイデン陣営がトランプ陣営よりもかなり優位になっている。それを生かして、3州の数十か所に事務所を構え、スタッフを数百人雇っている。戸別訪問するボランティアを集め、これまでの大統領選よりはるかに早い時期に事務所を準備しているという。民主党のスーパーPAC(政治活動特別委員会)「アメリカン・ブリッジ」は今回の選挙戦で、この3州の女性向け広告に1億4,000万ドル(約218億円)を拠出している。

それでもバイデン大統領は、この3州で今のところ苦戦を強いられている。インフレとイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が強い逆風となっているのである。

ミシガン州では、アラブ系コミュニティや若い有権者の間でバイデン氏への不満が高まっている。ペンシルベニア州、ウィスコンシン州においても、インフレとイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が有権者の批判の的となっている。

他方で、ペンシルベニア州とミシガン州では、それぞれジョシュ・シャピロ知事、グレッチェン・ウィットマー知事の人気がバイデン大統領の追い風になっている面もある。両知事は2022年の選挙で圧勝し、バイデン大統領を支持している。

トランプ大統領はこのところ、口止め料を巡るニューヨークでの裁判に多くの時間を取られており、この3州を含めた各州での選挙活動に十分に注力できていない。その間に、資金面で優位に立つバイデン陣営が、この「青い壁」3州での支持をどの程度固めることができるかが、11月の大統領選挙の行方を大きく左右するだろう。

(参考資料)
"Struggling in the Sunbelt and the West, Biden Tries to Fortify Blue Wall(バイデン氏、「青い壁」3州で攻勢 米大統領選)", Wall Street Journal, May 17, 2024

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。