事業者調査と家計調査に乖離
米労働省が6月7日に発表した5月分米雇用統計は、事前予想を上回る強めの内容となり、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待に水を差すことになった。
非農業雇用者増加数(事業所調査)は事前予想の+18万人程度を大きく上回る+27万2,000人増となった。前月は同+16万5,000人増だった。
また、時間当たり賃金は前月比、前年同月比ともに4月から上昇率が加速し、事前予想も上回った。前月比では+0.4%と前月の同+0.2%、事前予想の同+0.3%を上回った。労働市場の堅調と賃金上昇率の上振れは、物価上昇率の低下が遅れるとの懸念を再び強めることとなった。
ただし、今回の雇用統計には弱い内容も含まれている。5月の失業率は4.0%と前月の3.9%から上昇した。事前予想の平均は3.9%だった。失業率が4%に達したのは、この2年余りで初めてのことであり、上昇傾向はより明らかになった。さらに、失業率と同様に、家計調査に基づく雇用者数は前月比-40万人程度の大幅減少となった。これは今年に入って最大の減少幅だ。
米国労働市場、景気全体に弱さも
前月4月の雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比+17.5万人(速報値。今回+16.5万人に改定)と事前予想を大きく下回ったたことをきっかけに、労働市場の変調が意識されるようになった。
その後発表された指標でも、5月求人数の下振れなど、雇用関連の指標は総じて弱めに振れた。この点を踏まえれば、5月雇用統計の非農業雇用者増加数(事業所調査)が上振れただけで、労働市場の堅調が確認されたとは言えない。
米国経済全体を見ても、個人消費や製造業の活動には弱さもみられるようになってきた。今回の雇用統計だけで、米国経済の成長鈍化、物価上昇率の低下基調が変化したとは言えない。
ただし、FRBが利下げの時期を判断する上では、労働関連市場、特に雇用統計は重要であり、今回のような数字が続く中では、利下げに踏み切るのは難しい可能性がある。
9月利下げ確率は約50%に
今回の雇用統計を受けて、年内の利下げの回数についての金融市場の見方は、2回程度から1回程度に低下した。また、現時点で有力と考えられる9月利下げについて、金融市場が織り込む確率は、統計発表前の7割程度から、5割程度にまで低下した。さらに、7月の利下げを予想していた大手米金融機関の間では、統計発表後には予想時期を9月に先送りする動きも見られた。
雇用統計を受けて、ドル円レートは155円台半ばから一時は157円台にまで円安が進んだが、7日の米国市場は156円台半ばで終えた。週明けの東京市場で、雇用統計を受けて円安が一気に160円程度まで進み、政府が再びドル売り円買い介入に踏み切るといった可能性は小さいだろう。
FRBは、12日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策決定を行う。今回政策変更を見込む向きはほぼないが、そうした中注目されるのは、12日の朝に重要統計である5月消費者物価統計が発表されることだ。
その内容と、FRBの受け止めは、FRBの今回の雇用統計の解釈と並んで、金融市場が利下げの時期を占ううえで非常に注目する点だ。それら次第では、今回の雇用統計以上に金融市場が大きく揺るがされることになるのではないか。
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