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年内利下げ見通しの回数は2回から1回へ減少

6月11・12日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)は事前予想通りに7会合連続で政策金利の据え置きを決めた。

他方、金融市場が注目していた先行きの政策金利見通しでは、年内の利下げ回数の見通しは、参加者の予測中央値で見ると前回の3回から1回へと大きく減少した。金融市場の事前予想は2回あるいは1回であったため、この数字からは予想よりも利下げに慎重な当局の姿勢が示されたと言える。

年末時点での政策金利(FF金利誘導目標)の予想レンジは、参加者19人のうち、4人が5.25%~5.5%で現状維持、7人が5.0%~5.25%で、0.25%ポイントで1回の利下げ、8人が4.75%~5.0%で2回の利下げを予想した。

回答者数の中央の値を示す中央値では1回の利下げであるが、回答者数が最も多い最頻値では、2回の利下げとなる。他方、2025年については、中央値でみて4回の利下げ、つまり会合2回に1回のペースでの利下げが予想されている。前回は3回の利下げが予想されていた。

物価上昇率の低下傾向を示した5月CPI

FOMC声明文では、物価に関する文言が一部修正された。前回5月1日の公表した声明文では物価について、「過去数か月、委員会の2%の物価目標に向けたさらなる進展を欠いていた(In recent months, there has been a lack of further progress toward the Committee's 2 percent inflation objective)」と記述されていたが、今回の声明文では「緩やかなさらなる進展があった(In recent months, there has been modest further progress toward the Committee's 2 percent inflation objective)」と修正され、物価目標水準に向けたインフレ率の低下傾向について、やや楽観的な見方が示された。

こうした判断の修正に影響したのは、12日に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)上昇率が、予想を下回ったことだ。コアCPI(除く食料、エネルギー)は前月比+0.2%と、4月の同+0.3%、3月の同+0.4%を下回った。財コア(除く食料、エネルギー)は、中古車の価格上昇などの影響で前月比0%と2か月連続での下落の後に下げ止まったが、サービスコア(除くエネルギー)は前月比+0.2%と3月の同+0.5%、4月の同+0.4%から大きく減速した。CPIの上昇率は今年に入り1-3月期に低下ペースが一時鈍ったが、再び低下傾向が明らかになっている。

パウエル議長はハト派的な発言

パウエル議長は、予想を下回った5月CPIについて、「現時点での利下げを正当化するほどではない」、「正しい方向の一歩だが、一つのデータに過度に突き動かされるのはよくない」と語ったが、この数字は当局者らに歓迎された、と説明した。

またFOMCの政策金利見通しについては「予測中央値では年内の利下げ回数は減ったが、来年は一回増えた」、「今年実施されるかもしれない利下げは、来年に実施される」と述べ、利下げの見通しが後退した訳ではないことを強調した。

また議長は、「政策が十分に景気抑制的かどうかは、時間とともに明らかになる」、「政策が景気を抑制しており、われわれが望むような効果をもたらしているという証拠は非常に明確だ」と述べた。

FOMCが予想する年内の利下げの回数は減少したものの、5月CPIの下振れやこうしたパウエル議長のハト派的な発言を受けて、金融市場は全体としては利下げ観測をやや強めた。その結果、市場ではドル安と長期金利の低下が進んだ。

最短9月に利下げ、年内2回の利下げも

今回のFOMCで利下げに関する明確なメッセージがなかったことを踏まえれば、次回7月のFOMCで利下げが行われる可能性は低いだろう。利下げ開始は最短で9月とみられる。

その場合、今年最後の12月のFOMCで利下げが行われる可能性を金融市場は意識する。FOMCの予測の中央値では、年内1回の利下げが示されたが、金融市場は最大2回の利下げがあり得る、と現時点では考えている。

9月に利下げが行われるかどうかについては、今後の物価統計が引き続きインフレ率の低下傾向を示すかどうかが重要である。さらに、現在の金融政策が景気抑制的であることを裏付ける経済指標の下振れも、利下げの必要条件となるだろう。特に今後発表される雇用関連の指標は重要となる。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。