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6月13日にイタリアで始まった主要7か国首脳会議(G7サミット)では、ロシアの凍結資産を利用して、年末までに500億ドル(約7兆8,5000億円)をウクライナに支援する枠組みで各国が合意した、と報じられている。

日本や米国、英国、カナダが新たに創設する基金に融資をし、それをウクライナの復興や軍事支援として利用する枠組みだ。その融資の返済の原資となるのは、G7と欧州連合(EU)が凍結したロシア中銀の資産2,600億ユーロ(約44兆円)~2,800億ユーロ(約47兆円)の運用益となる。運用益は年間30億ユーロ(約32億ドル、約5,000億円)と見積もられている。

ウクライナの要請のもと、米国は当初、凍結資産をすべてウクライナの支援に活用することも検討していたとみられる。しかし、国際法に反する可能性や資産凍結を恐れて海外に外貨準備を保有することを控える国が出てくることで、国際決済に悪影響が及ぶことや国際流動性危機を引き起こすことなどを欧州各国は懸念していた(コラム「 G7財務相・中央銀行総裁会議ではロシア凍結資産の活用とドル高・日本の為替介入が注目点 」、2024年5月23日)。

最終的には、凍結資産全体ではなく凍結資産の運用益を活用することで、G7での合意が得られた模様だ。その結果、支援規模は、凍結資産をそのまま活用する場合と比べて2割未満にまで縮小された。

各国の融資に利払いが発生しないとすると、この年間約32億ドルの運用益で500億ドルの融資の返済が終わるまでには、約16年かかることになる。そうした長期間、ロシアの資産を凍結することが前提であるこの枠組みは、苦肉の策との印象がある。国際法順守の観点からも不確実性は残るのではないか。

ところで、世界銀行は今年2月に、ウクライナの復興に必要な費用は今後10年間で4,860億ドル(約76兆円)にのぼるという試算を発表した。この復興費用と比べると、今回の支援額はその10分の1程度にとどまる。さらに、戦争継続のための支援も別途必要となる。

今回のG7の枠組みが稼働してもなお、ウクライナへの軍事支援、復興支援については、先進国のさらなる大きな負担は免れない。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。