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19日にブルームバーグ社が報じたところによると、財務省は国債発行の年限を短期化する方向で検討を進めている。同省が21日に開く「国の債務管理に関する研究会」で、有識者らが提言する見通しだ。

財務省は、低金利環境の下で長期的な利払い負担を抑えるために、発行する国債の平均年限を長期化してきた。そうした政策が転換されるきっかけとなったのは、日本銀行が3月にマイナス金利政策を解除したこと、そして7月に国債買い入れ減額を始めることだ。

こうした日本銀行の政策転換によって、国債の金利上昇(価格下落)のリスクは高まる。特に超長期国債はそのリスクが大きくなる。今後国債買い入れ減額を進める日本銀行に代わって国債の購入を増やすことが期待される金融機関などが、金利上昇リスクから長期国債の購入に慎重になる可能性がある。その場合、長期金利が上昇し、国債の円滑な消化に支障が生じるなどの問題も生じ得る。そこで、日本銀行の政策転換に合わせて、財務省は国債発行の年限を短期化し、新規に発行する国債のリスク量を抑えることを検討しているのである。

ところで、日本銀行が対象となる国債の年限に制限を設けずに長期国債の買い入れを始めた2013年の「量的質的金融緩和」以降、日本銀行が買い入れる長期国債の平均年限は、財務省が発行する国債の平均年限を意識して調整されてきた。日本銀行の国債買い入れが、イールドカーブ構造など国債市場の環境に与える影響をできるだけ小さくするためだ。それには、日本銀行の長期国債買い入れは、国債管理政策の一環ではなく、純粋に金融政策の目的で行われることを明示する狙いがあった。

しかし、7月に国債買い入れ減額を始めると、日本銀行は新規に買い入れる国債の平均年限の短期化を検討するだろう。保有する国債の平均年限が短くなれば、国債が償還されていくスピードが高まり、より速く保有国債の残高を減らすことができるためだ。正常化のプロセスが迅速化されるのである。

しかし、発行されている国債よりも日本銀行が保有する国債の平均年限が顕著に短くなれば、イールドカーブ構造など国債市場の環境を歪めることになってしまう。そこで、財務省が発行する国債の平均年限を短期化すれば、日本銀行が保有する国債の平均年限を短期化することが実施しやすくなるのである。

日本銀行の国債買い入れ政策の見直しと財務省が発行する国債の平均年限短期化とは、両者が足並みを揃える事実上の協調策と言えるだろう。その結果、金融政策と国債発行策並びに国債市場の正常化が同時に進むことになる。

そして、日本銀行の政策転換で国債が本来の機能を徐々に取り戻していく中で、財務省が発行する国債の平均年限を短期化すれば、財政リスクで金利がより上昇しやすくなる。その結果、政府は、財政政策運営により責任を持つようになり、財政規律を取り戻すことを助けるのではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。