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野村総合研究所と
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複数のメディアは、政府が5月使用分で終了した電気・ガス代の負担軽減策を、冷房需要が高まる8月から10月までの3か月間再開する方針を固めた、と報じている。

円安の進行で、電気・ガス料金が先行きさらに上昇する見込みであることや、補助金廃止が、6月から実施した定額減税の景気浮揚効果を相殺してしまうとの自民党内の意見を受けたものだ。6月21日夕刻の記者会見で岸田首相が表明する見通しだという。

報道されている通りにこの政策が打ち出されるのであれば、まさに「朝令暮改」であり、7月の都知事選、9月の総裁選など選挙日程を睨んだ政治色の強い決定のように見える。

ただし、この3か月の補助金復活の景気浮揚効果はかなり限定的だ。仮に、6月まで実施されていた制度に戻すのであれば、2人以上世帯では、電気料金の支払いは月間1,475円程度、都市ガスは月間455円程度減少する見込みだ。

この補助金復活による景気刺激効果を考えると、個人消費は1年間で+0.06%、GDPは+0.02%とかなり限定的だ(内閣府、短期日本経済計量モデル・2022年版に基づく)。

足もとで進む円安が、個人の物価上昇の長期化懸念から個人消費を損ねている面が大きいと考えられる。政策的に為替をコントロールすることは簡単ではないが、補助金復活よりも円安抑制の方が、景気刺激効果は大きいのではないか。

これ以外に政府は、ガソリン代補助も年内をめどに当面継続させるほか、年金生活者や低所得者を対象とした給付金も検討するとされる。物価高対策は、当初から、このような低所得者など生活弱者やエネルギー価格高騰で打撃を受ける零細企業向けとすべきではなかったか。その方が、予算規模を抑えて財政負担を軽減できるうえ、より手厚い支援を低所得者や零細企業に集中的に行うことができるのではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。