&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

バイデン大統領は米国時間21日、大統領選挙戦から撤退することを発表した。大統領TV討論会、共和党のトランプ氏の襲撃事件を受けて、バイデン大統領がトランプ氏を打ち負かすことができる可能性が低下していた。民主党内からも撤退を呼びかける声が相次ぎ、またペロシ前下院議長やオバマ前大統領も支持しない考えを示す中、撤退は時間の問題との見方が広がっていた。現職大統領の選挙戦撤退は、1968年のジョンソン大統領以来となる。

バイデン大統領は、公認候補にカマラ・ハリス副大統領を支持、推薦する考えを示した。ハリス副大統領が公認候補となる可能性が高いとみられるが、まだ確定ではない。カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏、ペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ氏、ミシガン州知事のグレッチェン・ホイットマー氏なども有力候補である(コラム「 バイデン、大統領選離脱のプランB 」、2024年7月2日)。

彼らが民主党大統領候補を目指す場合、8月19日に始まる民主党大会が決選の場となる。多くの代議員はバイデン大統領が支持したハリス副大統領に投票することが予想される。ただし、党大会での決選投票に持ち込まれる場合には、民主党の分裂が表面化し、大統領選挙では民主党が不利な状況を招くだろう。

米CBSなどが7月16日から18日まで実施した世論調査によると、ハリス副大統領がトランプ氏と勝負をする場合、ハリス副大統領の支持率は48%とトランプ氏の51%に後れをとっている。大きな差ではないが、ハリス候補の下でも、民主党にとっては厳しい選挙戦が続く(コラム「 トランプ氏は受諾演説で国民に結束と融和を呼びかけた:バイデン大統領の選挙戦離脱観測が強まる 」、2024年7月19日)。

ハリス副大統領は概して人気がないが、バイデン大統領、トランプ氏と比較した場合の若さや女性の強みを生かすことに留まらず、大統領選挙までの短期間のうちに大統領としての資質を国民にアピールできるかどうかが注目されるところだ。それができない場合には、トランプ氏再選の可能性が高まるだろう。

トランプ氏の経済政策は、最終的にはドル安、株安傾向を生じさせると見ておきたい。特に米国景気が減速すれば、その傾向を増幅し、株安、ドル安の傾向を促すことになるのではないか。ただし、トランプ氏の政策には株高、株安の両面、ドル高、ドル安の両面があることから、当面は明確な方向感は出ない可能性も考えられるところだ。

バイデン大統領が大統領選挙戦からの撤退を受けても、22日のオセアニア市場で為替は大きく動いていない。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。