&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

2024年はビットコインの価格に3つの追い風

2024年のビットコインは、3つの追い風に支えられて3月まで急速に上昇した。第1の追い風は、1月10日に米証券取引委員会(SEC)が、ビットコインを運用対象とする現物ETF11本を承認し、取引が始められたことだ。投資家は暗号資産取引所ではなく、株式のように証券会社からビットコインETFを購入することができるようになった。投資対象としての信頼性が高まるとともに、個人投資家の投資のハードルが下がったのである。

第2は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待だ。FRBは2023年7月を最後に、利上げを実施していない。利上げの打ち止め観測や利下げ観測は、ビットコインなど暗号資産には追い風となる。金利が低下し、安全資産の期待リターンが低下すると、ボラティリティの高い暗号資産には、「ハイリスク・ハイリターン」を志向する投資家がより注目するようになる。

第3は半減期だ。ビットコインの取引では、分散型台帳の一つであるブロックチェーン上での一定期間ごとの取引記録をまとめたブロックが生成される。そのマイニングに対する報酬として、新たにビットコインが発行される。ビットコインの発行量は2,100万枚が上限と開始当初から定められており、ブロック数が21万個に達したときに新規発行数を半減させる、いわゆる半減期が生じる設計となっている。それには、ビットコインの供給に制限を設けることで、価値の安定を図る狙いがある。

これまでの半減期は、2012年11月、2016年7月、2020年5月の3回あり、概ね4年に一回の頻度で生じた。そして2024年4月頃に半減期が訪れるという期待から、ビットコインは買われた。半減期によって供給量の増加ペースが低下すれば、需給改善と価格上昇につながるとの期待が高まったためだ。実際、今年4月に4回目の半減期が訪れた。

米国を地球上の暗号資産の首都、ビットコイン超大国に

このようなビットコインの3つの追い風は、3月には概ね市場で消化され、ビットコインの価格は3月に史上最高値の7万ドル台に乗せたが、その後は頭打ちとなっていた。そうしたビットコインの価格を再び7万ドル 近傍にまで に押し上げたのは、共和党大統領候補のトランプ前大統領だ。

トランプ氏は以前より暗号資産の支援を公約に謳っていたが、7月27日に開催された「ビットコイン2024」カンファレンスで演説を行い、大統領選挙で再選されれば、米国を「地球上の暗号資産の首都、ビットコイン超大国」にすると豪語した。

また、暗号資産の規制に前向きな米国証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長を就任初日に解任し、暗号資産業界についての大統領諮問委員会の設置、ステーブルコインの枠組み創設を約束した。

11月までは大統領選挙を睨んで動くか

しかし、2019年にトランプ氏は、ビットコインとその他の暗号資産について、金銭ではなく価値が不安定で、規制がなければ麻薬取引など違法活動に利用される恐れがある、と否定的な見方を示していた。また2021年には、「ビットコインは詐欺だ」と述べ、特に米ドルと競争しなければならない点が、自身が嫌う理由だとしていた。

そんなトランプ氏が突然、暗号資産の信奉者に変わったのは、大統領選挙に有利になるという読みがあったからだ。暗号資産を支持することは、若者の評価を高めることにつながるだろう。さらに、暗号資産業界から選挙資金を集める狙いもある。トランプ氏はこれまでに、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産で400万ドル(約6億1500万円)以上の大統領選支援金を受け取ったという。

このように、選挙戦略の色彩が強いトランプ氏の暗号資産支持ではあるが、暗号資産の価格を動かすには十分な影響力を持つだろう。11月の大統領選挙に向けて、ビットコインなど暗号資産の価格は、選挙の見通しを受けて日々大きく変動する相場の色彩を強めるだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。