4月の決定会合後と対照的な動きに
7月31日の海外市場では、同日の日本銀行の追加利上げ実施と米連邦準備制度理事会(FRB)の9月利下げ示唆の合わせ技で円安修正が進み、149円台と3月以来の円高水準に達した。
日本銀行は7月31日の金融政策決定会合で、予定されていた国債買い入れ減額計画の決定に加えて、追加利上げを決めた。さらに、植田総裁が先行きの追加利上げに前向きの発言をしたことから為替市場で円高が進んだ。
こうした動きは、4月の決定会合とは対照的な動きだ。4月には、決定会合後の記者会見での植田総裁の発言が、円安を容認していると受け止められ、円安が加速した。1ドル160円まで円安が進んだことを受けて、4月末と5月初めには政府がドル売り円買いの為替介入を実施した。日本銀行の失策をカバーした形であった。
今回は、1ドル161円台まで円安が進んだことを受けて、政府は7月11日と12日にドル売り円買い介入を実施したとみられる(コラム「 連日の為替介入観測、米国利下げ観測で歴史的円安の終わりが見えてきたか 」、2024年7月16日)。7月末で退任した神田財務官の最後の為替介入だっただろう。
介入の効果で円安の調整が進んだタイミングで、今度は日本銀行が追加利上げで円安調整をさらに後押しし、政府を助けたのである。まさに、4月とは全く対照的な展開となった。ドル円レートは、ピークから12円程度、円高方向に調整した。
歴史的な円安は修正局面に
2022年、2023年ともに、為替市場は一時円高に振れた後、円安方向へと再び揺り戻された。しかしそれには、米国経済、物価動向の上振れで、FRBの利下げが先送りされるとの観測が背景にあった。しかし今回はそれとは大きく異なる。FRBの利下げ転換はもはや揺るがない状況にまで至っている。日米金融政策が逆方向に動くという歴史的なイベントが生じるもと、2022年以来の歴史的な円安は修正局面に入り、緩やかに円安が修正されていくとみたい。今年年末時点では1ドル140-145円、その後は年間10円~15円と緩やかなペースで円安が修正されていこう。
今回の日本銀行の追加利上げは、円安進行によって背中を押され、円安けん制を意図したものと、まさに円安が主役であった可能性が考えられるが、この先円安の修正が進めば、日本銀行は、経済、物価を睨んだ金融政策へと回帰していくだろう。その際には、円安、物価高懸念で下振れている個人消費の弱さにも配慮し、より慎重な利上げ姿勢になることも考えられる。
9月利下げが示唆されたFOMC
FRBは、7月31日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の据え置きを決定した。FOMC声明文には大きな変更が見られた。物価上昇に対する警戒感を和らげる表現へと幾つかの表現の修正がなされた。例えば、前回の声明文では物価上昇率はなお高い(remains elevated)、としていたが、今回はなお幾分高い(remains some elevated)とした。
さらに、雇用拡大と物価安定の2つの使命達成に向けたリスクは、良いバランスに入った(move into better balance)として、前回の良いバランスに向かっている(moved toward better balance)から修正された。さらに、2年間使ってきたインフレのリスクにより注意を払うとした表現(highly attentive to inflation risks)を雇用とインフレの双方のリスクに注意を払うとの表現(attentive to the risks to both sides of its dual mandate)に修正した。これは政策姿勢の転換を裏付ける大きな修正である。
さらにパウエル議長は記者会見で、「政策金利の引き下げは早ければ9月の次回会合で協議する可能性がある」と語った。今後9月のFOMCまでに出てくる経済、物価指標が大きく上振れない限り、FRBが9月に利下げを実施する可能性はかなり高まったと言えるだろう。
さらに市場では、9月に続いて11月あるいは12月の利下げ観測も高まっている。年内に日本銀行がさらに1回の追加利上げ、FRBが2回の利下げを実施する場合に、年末までに円安修正は着実に進むことになるだろう。
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