&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
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5日の東京市場で日経平均株価は前日比4,451円安、12%の下落と、1987年のブラックマンデー時の下落幅を上回る急落となった。世界的な物価高騰の下でも維持された日本銀行の異例の金融緩和が生んだ「円安・株高バブル」の崩壊、が背景にあると考える。それに、米国景気後退懸念が、米国株の下落を通じて、そうした動きを増幅した。

ただしこれは、1987年のブラックマンデー時や2008年のリーマンショック時の株価下落とは本質的に違う面がある。それらは、米国が抱える経済・金融の問題が表面化し、それが世界に波及したものだ。今回は日本が中心のパニックであり、世界全体の金融危機という様相は今のところは強くない。株価の下落幅は日本が突出して大きく、他の国の株価下落幅はそれと比べるとまだ小さい。年初来、しばらくは日本株の独歩高が続いていたが、足もとではその反動で、日本株の独歩安が進んでいる。その意味では、正常化という側面が強い。「グローバル金融危機」ではなく、今のところが日本中心の金融市場の混乱という、「ジャパン・パニック」の状況である。

日本の特殊性は、金融緩和の余地にもある。例えば米国では政策金利は5.25%~5.5%であり、金融市場を安定化させるために大幅な緩和の余地があり、それが金融市場の安心感につながっている。ところが日本の政策金利は0.25%程度であり、日本銀行には緩和余地がないことが、金融市場の不安を高め、株価の下落幅を大きくしている面もあるだろう。

現在、日本人が感じている強い危機感は、世界ではまだ共有されていない。米国景気後退懸念は意識され始めているが、それだけであれば100年の一度の金融危機にはならない。景気後退をきっかけに、米国経済が抱える金融面での問題が先行き噴出してくる可能性はあるが、現時点ではそれは明確に見られていない。

今後の海外市場の動向は注視してみていく必要はあるが、現時点では欧米の株式先物市場では、日本のような急落は見られていない。この点から、過度に悲観的になることも控えるべきだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。