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異例な個人消費の弱さは続く

内閣府は8月15日(木)に、日本の4-6月期GDP統計を発表する。日本経済新聞社の調査によると、実質GDPの予測平均値は前期比年率+2.3%と、前期の同-2.9%から2四半期ぶりに増加に転じる見込みだ。

実質個人消費は1-3月期まで4四半期連続で前期比マイナスとなった。これは、リーマンショック後の2009年1-3月期以来であり、1980年まで統計を遡っても4四半期連続でのマイナスはこの2回しかない。そのくらい、個人消費の基調は弱いのである。円安によって増幅された先行きの物価高騰懸念が、異例な個人消費の弱さをもたらしているだろう。

4-6月期の実質個人消費は、前期比+0.6%程度と5四半期ぶりの増加が見込まれている。しかしこれは、年初の自動車メーカーの認証不正問題の影響で1-3月期の個人消費が落ち込んだことの反動、という側面もある。6月にも新たな認証不正問題が発生したが、1-3月期と比べるとその影響は小さかった。

その影響を除くと、個人消費の基調は弱いままだ。厚生労働省が8月5日に発表した6月毎月勤労統計で、実質賃金は前年同月比+1.1%と27か月ぶりにプラスとなったが、それは、変動の激しいボーナスなど一時金を含む「特別に支払われた給与」が前年同月比+7.7%と上振れたことによる一時的な側面が強く、7月分では再びマイナスに戻る可能性がある。

9月以降は、実質賃金の前年比上昇がようやく定着していくことが予想されるが、実質賃金の水準は既に大きく下落しており、その下落分を取り戻すにはなお時間がかかる。そのため、個人消費の低迷は続くだろう。

しばらくは金融市場動揺の影響に注目

円安進行は、企業収益を増加させ、株価を押し上げてきた面がある。他方、円安は個人の先行きの物価高懸念を増幅し、異例な個人消費の弱さを生み出したとみられる。円安が、企業収益の拡大・株高と個人消費の低迷という日本経済の2極化を生んだ。

この先、円安が緩やかに修正されていけば、個人の先行きの物価高懸念が緩和され、個人消費の回復を助けるのではないか。

他方、円高が急速に進行し、また、それが株価の大幅下落を伴う場合には、個人消費を含めて景気全体には逆風となりやすい。足もとでは、急速に円高・株安が進んだ。そうした金融市場の動揺が長引く場合には、年末にかけての国内景気は下振れる可能性が高まるだろう。

さらに、米国景気の悪化に伴い円高・株安が進む場合には、企業の先行きの不確実性が高まり、設備投資、雇用、賃金の抑制につながる。それは、物価と賃金が相乗的に上昇していくとの期待を大きく損ねることになるだろう。その場合、日本経済が景気後退局面に陥る可能性が相応に高まるだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。