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総務省は8月30日、8月分東京都区部CPIを発表した。コアCPI(除く生鮮食品)は前年同月比+2.4%と7月の同+2.2%を上回った。8月コアCPIの事前予想同+2.2%も上回った。

CPIの前年比上昇率の押し上げ寄与度を7月と比べてみると、エネルギー価格が+0.11%ポイント、家庭用耐久財が同+0.04%、生鮮食品を除く食料が同+0.02%だった。悪天候などの影響で、生鮮食品は前年同月比+8.1%と前月の同+3.3%から加速した。また、過去1年近くにわたって前年同月比で低下基調を続けてきた生鮮食品を除く食料の前年比上昇率は+2.7%と前月の同+2.6%を上回った。

猛暑による不作で流通量が不足する中、コメの品薄による価格高騰が続いている。8月のうるち米(コシヒカリを除く)の価格は前年同月比+28.2%と大幅に上昇した。コメ類全体の価格は前年度同月比+26.3%と、約20年ぶりの上昇率となった。

より基調的な物価動向を示す食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合は、前年同月比+1.3%と前月の同+1.1%を上回った。また、日本銀行が注目するサービス価格も、前年同月比+0.7%と前月の同+0.5%を上回った。このように、8月分東京都区部CPIは、基調的な部分を含めて全体的に上振れたのである。

サービス価格の中で上昇が目立ったのは、入場・観覧・ゲーム代、文化施設入場料、カラオケ、理美容サービス、入浴料などだ。これらは、賃金上昇の影響で上振れたのか、その他の経費上昇の影響などで上振れたのかは明らかではない。

仮に春闘での賃上げの影響が一部表れているとしても、それだけで賃金・物価の好循環が生じ、2%の物価目標達成の確度が高まるとは言えないだろう。基調的な物価上昇率は、賃金上振れ、円安の影響で一時的に下げ止まることがあるとしても、鈍化する方向は変わらないのではないか(図表1)。

足元で円安基調が修正されていることも、先行きの物価上昇率の低下につながるだろう。日本銀行が発表する基調的な物価上昇率も鈍化傾向が目立っている(図表2)。

基調的な物価上昇率は引き続き低下傾向にあり、2%の物価目標達成は依然として難しいと考える。しかし、2%の物価目標達成は難しい、つまり物価上昇率のトレンドが2%に達しないとしても、現在の政策金利がかなり低いことは確かであることから、日本銀行が追加利上げを進める方針は、当面は変わらない。そのため、今後の物価動向でサービス価格を中心として基調的な物価上昇率が一時的に上振れれば、追加利上げの時期が早められる可能性も考えられるところだ。今後の物価動向を引き続き注視したい。

図表1 基調的な消費者物価上昇率の推移

図表2 消費者物価の基調的な動き

図表3 コアCPIの見通し

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。