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8月と同様に米国経済指標の下振れが日本株の大幅下落を引き起こす

8月5日に日経平均株価が過去最大の下落幅を記録してから、およそ1か月が経過した9月4日の東京市場で、日経平均株価は一時1,500円を超える大幅下落となった。金融市場の不安定な状況はなお続いている。

日本銀行の利上げ観測と米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測の高まりを背景に為替市場でドル安円高が進む中、米国経済指標の下振れを受けて米国経済への不安が高まり、米国株が大幅に下落したことが、4日の日経平均株価の大幅安の背景だ。この構図は、1か月前と全く同じである。

9月4日に発表された8月米ISM製造業景況感指数は、8か月ぶりの低水準だった7月の46.8から47.2へと小幅に上昇したものの、なお低水準にとどまった。さらに、先行指標となる新規受注は44.6と7月の47.4から低下した。生産も7月の45.9から44.8へと低下し、2020年5月以来の低水準となった。製造業の活動についての先行きに、再び不安が生じている。

米国の実質GDPは今年4-6月期の前期比年率+3.0%から、最新9月3日のアトランタ連銀GDPNowによれば、同+2.0%と減速が見込まれているが、なお安定したペースは維持されている。ただし、足もとの経済指標には、製造業と雇用関係を中心に弱さも目立っている。

8月米ISM製造業景況感指数を受けて、米国市場では景気減速懸念が再燃し、4日のダウ平均株価は626ドルの大幅安となった。また、日本の株式市場に大きな影響を与えるAI向け半導体メーカー大手のエヌビディアの株価が大幅に下落したことで、4日の日本株にも大きな下落圧力がかかった。さらに、ドル円レートは一時144円台まで円高が進んだことから、日本株の下落幅はさらに増幅されたのである。

日本市場は米国経済指標に左右される流れ

日本市場では、現在、過度な金融緩和が生み出した「円安株高バブル」の調整期にあると考えられる。日米の金融政策が逆方向に動き、また、日本の物価高懸念が徐々に緩和される中、先行きは緩やかに円高が進むことが予想される。緩やかな円高は、物価高懸念を緩和し個人消費にも追い風となることから、株価には決定的な打撃を与えないと考えるが、急速な円高となれば、8月に見られたような株価の急落が再び生じる可能性もあるのではないか。

日本市場を大きく左右するのは、8月と同様に米国の経済動向だ。当面のところでは、9月6日に発表される米国8月雇用統計がかなり重要である。8月の雇用者増加数は、大きく下振れた7月の前月比+11.4万人を若干上回る同+16.5万人程度が予想されている。仮にこれを大きく下回る雇用者増加数となれば、米国景気悪化懸念が再浮上し、米国株安、ドル安円高が生じて、再び日本の株価が大きく下落する可能性があるだろう。

他方、雇用統計が事前予想を上回る内容であれば、金融市場は安定を取り戻し、世界的な株価上昇につながる可能性もある。現状ではどちらの可能性もある状況だ。いずれにせよ、日本の市場は米国の経済指標に大きく揺さぶられる状況がしばらく続くだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。