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利下げは会合ごとにデータに基づき判断

欧州中央銀行(ECB)は9月12日に開かれた理事会で、主要政策金利の中銀預金金利を3.75%から3.50%へと0.25%ポイント引き下げることを全会一致で決めた。これは事前予想通りだった。利下げは6月の会合以来となる。

金融市場は、10月の次回会合で連続利下げがあるかどうか、今までの四半期に一度の利下げペースが加速することへの示唆があるかどうかに、注目していた。しかし、そのような示唆はなく、10月の連続利下げ観測は後退した。金融市場は、今回の会合前には10月の連続利下げの確率を約40%織り込んでいたが、会合後の確率は20%~30%程度にまで低下した。

ECBは7月の会合で、「金利をあまりに長い期間、制限的な水準に維持することで、経済に過度な損害を与えないことも重要だ」と指摘し、今回の9月会合での利下げを行うことを強く示唆していた。しかし今回の会合では、そのようなメッセージはなかったのである。

ECBは今後3年間のユーロ圏の経済成長見通しを小幅に下方修正した。他方で今年のインフレ率の見通しを上方修正している。インフレ率が目標値に戻るのは来年後半とみられている。ユーロ圏は、引き続きスタグフレーション的なリスクに直面しているのである。

声明では「インフレ見通し、基調インフレの動向、金融政策の伝達程度に関する最新の評価に基づき、金融政策の制限の度合いを緩和する措置を講じることが適切と理事会は判断した」と述べた。その上で「理事会は引き続き、データに依存して会合ごとに適切な水準と制約期間を決定する」とし、「特定の金利の道筋を事前に確約することはない」と述べた。

ラガルド総裁も記者会見で「引き続きデータに依存し、会合ごとにアプローチしていく。特定の金利の道筋をあらかじめ確約することはしない」、「一連の指標を精査している」と述べた。

ユーロ圏では、特にドイツ経済の減速が明らかになっている。他方でECBは、「賃金が依然高いペースで上昇しており域内のインフレ率は依然として高い」と指摘している。賃金についてラガルド総裁は、「一部の国において一時金が重要な役割を果たし、賃金調整が段階的に行われるため、妥結賃金上昇率は、年内は高水準で変動しやすい状態が続くだろう」とした。そのうえで、高い賃金上昇が、サービス価格が高い上昇率を維持する背景にあり、総裁は「サービスインフレは明らかに、極めて注意深い理解と監視を必要とする」と警戒的に述べている。

欧米ともに0.50%の大幅利下げの時期が注目

ECBは次回10月の会合で追加利下げを見送り、12月の会合で0.25%の追加利下げを実施する方向を、金融市場は予想している。来年以降、いつの時点で、ECBが会合ごとの連続利下げに転じるか、あるいは0.25%ではなく0.50%の利下げを実施するかが金融市場の大きな関心事となっている。

他方、米国でも米連邦準備制度理事会(FRB)が、9月の0.25%の利下げを実施した後、いつ0.50%の大幅利下げを実施するかという点が市場で注目を集めている。両国ともに金融政策は利下げ方向、との見方は揺るがないが、利下げのペース、幅についてはなお観測が揺れ動く可能性があり、それがドルユーロレートのボラティリティを高めることになるだろう。

ところでECBがどの水準まで利下げを行うかとの観測は、欧州の長期金利の水準に大きな影響を与えるが、その観点から、経済に中立的な実質金利の水準である自然利子率(Rスター)が注目を集めている。この点についてラガルド総裁は、「ECBスタッフがRスターに関する非常に優れた論文を発表しており、Rスターが以前より若干高いことが示唆されているが、私はこれを支持するつもりはない」と明言している。ECBがRスターの水準について明確な見方を示さない姿勢であるのは、FRB、日本銀行とも共通している。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。