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野田新代表は政治改革の実現を政策の中心に据える

9月23日に開かれた立憲民主党代表選挙では、決戦投票で野田元首相が枝野前代表を破り、新代表に選ばれた。野田氏は、自民党からの政権奪取を目指すとし、衆院選が近いことを念頭に、10月1日の臨時国会から自民党に戦いを挑むという強い覚悟を示している。政権奪取や近い将来の衆院選を念頭に、過去に首相を経験し、安定感と知名度のある野田氏が代表に選出された形だ。

野田氏は選挙戦で、政治改革の実現を政策の中心に据えてきた。先般成立した政治資金規正法をさらに改正する考えを明言しており、野党の統一改正案の提出を目指すとしている。その中では、いわゆる「連座制」の強化や企業・団体献金の禁止、政策活動費の廃止などを行うとする。それ以外には、国会議員の世襲の制限や議員定数の削減も目指すとしている。

注目される野党間連携について、野田新代表は前向きだ。まずは国民民主党との連携、選挙協力を目指し、その後に、日本維新の会を念頭に、穏健保守との連携を模索する、との考えを示している。ただし、共産党とは政権をともにする考えはないとしている。政治資金規正法改正の野党統一案提出は、衆院選挙に向けた野党間連携の試金石になりそうだ。

「分厚い中間層の復活」、ベーシックサービスの拡充

経済政策の面では、野田新代表は家計重視の方針を強調しており、格差を縮小させ、「分厚い中間層」を復活させるとしている。

「自民党は大企業優先だが、われわれは個人の家計を重視することが決定的な違いだ。税の再分配としての消費税の還付や、ベーシックサービスの拡充、それに教育の無償化など家計が元気になるような政策を打ち出すことが大事だ」とも述べている。野田新代表は、保育や看護、介護に従事する人の待遇改善のほか給食費の無償化などを掲げ、さらに代表選での演説の中では、医療、教育などベーシックサービスをすべて国が供給することを目指す、という左派色の強い考えを示している。

立憲民主党は、前回2021年の衆院選挙で、新型コロナウイルス問題への対応として、時限的な消費税率の5%への引き下げを掲げたが、野田新代表は「税率の引き下げは軽々に言えない」、「(消費税率を)一度下げたら戻すのが大変」と、消費税率の引き下げに慎重な姿勢を示している。ただし、「経済が厳しいときには引き下げの議論はあってもいい」とし、将来的な実施は否定しない姿勢だ。現時点で消費税率の引き下げに反対なのは、自民党総裁選の9候補と共通している。

金融政策の正常化と財政規律重視の姿勢

野田新代表は、金融政策と財政政策について、「金利が低い状況は政府にとって借金がしやすく、最近は野放図に借金している傾向がある。日銀と政府がどういう目標で金融や財政政策をしていくか、共同声明=アコードをもう1回見直すところから始めないといけない」と述べている。この発言は、財政規律を維持し、財政健全化を進める観点から、金融政策の正常化を進めていくべき、との考えを示しているのだろう。金融政策の正常化を支持する考えは、自民党総裁選の候補者の中で、高市氏を除く8人の候補者と共通している。また、財政規律重視の姿勢は、石破氏、河野氏と共通している。

9月27日に開票される自民党総裁選で誰が新総裁に選ばれるかにもよるだろうが、野田新代表が率いる立憲民主党と自民党との間では、経済政策を巡る対立はそれほど激しくはならないのではないか。両党間の今後の国会、あるいは衆院選挙での最大の争点は、「政治とカネの問題」への対応が中心となるのではないか。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。