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物価高対策に前向きな発言が目立つ

自民党総裁選では、物価高対策も候補者間での議論の対象となっている。特に前向きの発言が目立つのは、小泉氏と高市氏だ。

小泉氏は9月6日の立候補表明の記者会見で、「物価高の中で食品高騰などに苦しんでいる年金生活世帯や低所得者世帯を対象に、追加の給付金で支援することを検討していきたい」と語った。さらに、「低所得者への給付や地方創生臨時交付金を拡充する」と、財政出動の必要性を訴えた。

15日のNHKの番組では、各候補者から、10月使用分で終了を予定する電気・ガス料金への補助を巡る発言が目立った。高市氏は「もう少し延ばさなきゃいけないのかどうか出口を柔軟に考える」とした。高市氏は、補正予算編成を検討する考えも示している。

また林氏も「(電気・ガス料金の上昇が)続いているとしたら抑制策は続けたい」と述べた。小林氏は年内に物価高対策パッケージをまとめ、保育や介護などの分野を重点的に支援すると説明した。

他方で石破氏は「賃金を上げていくことが、一番即効性がある」とし、物価高対策に慎重な姿勢を見せている。

物価高対策には円安修正が有効

実質賃金がようやく前年比でプラスのトレンドに転じつつあるものの、個人消費の基調はなお弱い。

しかしながら、電気・ガスやガソリンの補助金を続ければ、個人消費の基調が強まる訳ではないだろう。個人消費の回復には高い物価上昇率が長らく継続するという物価高懸念を緩和することが必要だ。そのためには、円安修正が有効だろう。

現在、家計を圧迫するエネルギー価格や食料品価格の上昇は、海外市況の上昇によるものではなく、ほとんどは円安を通じた輸入物価上昇によるものだ。日本銀行が金融の正常化を進める中で、円安が修正されていくことこそが重要な物価高対策となる。

実際、足もとで円安は修正され、輸入物価は下落に転じつつある。それによってエネルギー価格は先行き下落に転じていくことが見込まれる。こうしたもと、現時点では、財政負担が大きい電気・ガスやガソリンの補助金延長を、拙速に決めるべきではないだろう。

弱者対策へと転換する必要

仮に物価高対策を継続するのであれば、その対象を弱者に絞り込むといった転換が必要なのではないか。エネルギー価格の上昇でも生活に十分余裕がある世帯にまで補助金を出すことは、財政資金の無駄遣いでもある。しかもそのお金は、広く国民から集めたものであり、国民の負担だ。

国民のお金をもっと有効に使うためには、エネルギー価格の上昇で大きな打撃を受けている低所得世帯、零細事業者に絞ってピンポイントで補助金を支給すべきだ。

物価高対策を巡る候補者の議論が、選挙を意識して目先の国民の利益を優先する方向に振れるのであれば、それは問題だ。より中長期の視点に立って、対策の効果と負担との比較考量をしっかりと議論して欲しい。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。