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総務省は9月27日に東京都区部9月CPIを発表した。コアCPI(除く生鮮食品)の前年同月比は+2.0%と8月の同+2.4%から大きく低下した。これは、政府が8月分から3か月間、電気・ガス補助金を再導入したことの影響で、事前に予想されたことだ。

電気・ガス料金が、9月のCPIの前年同月比を8月と比べて0.39%程度押し下げた。また、宿泊料が0.05%、家庭用耐久財が0.04%、それぞれ前年同月比を押し下げた。

他方で、生鮮食品を除く食料品は前年同月比+2.8%と、2か月連続で上昇している。上昇に大きく寄与しているのがコメである。うるち米(コシヒカリを除く)は49年ぶりとなる前年同月比+42.0%上昇し、CPI全体の前年同月比を0.12%押し上げている。

政府の政策や円安による輸入物価の上昇の影響を受けにくい基調的な部分のCPI、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合は、前年同月比+1.2%と前月横ばいとなった。コアCPIは9月の東京都区部で+2.0%、8月の全国で+2.8%と、日本銀行の物価目標である2%以上の水準にあるが、基調的な部分は2%を割り込んでいる。

また、日本銀行が9月25日に発表した、消費者物価統計に基づく基調的な3つのインフレ率の指標では、加重中央値、最頻値ともに大きく下振れた。さらに、刈込平均値を含む3つの指標がともに、日本銀行が目標とする2%を下回っている。

円高による輸入物価低下の影響が今後加わってくれば、基調的なインフレ率はさらに下振れ、消費者物価上昇率が持続的に2%程度で安定する、2%の物価目標達成は遠のいていくだろう。

日本銀行は、輸入物価の上昇という一時的な要因が賃金に転嫁され、それがサービス価格に転嫁されることで、持続的な物価上昇となり、2%の物価目標が達成されると説明してきた。しかし、今回の9月の東京都区部9月CPIでは、サービス価格は前年同月比+0.6%と前月の同+0.7%から低下している。この点を踏まえても、中長期的にCPI上昇率が2%程度で安定する、2%の物価目標達成は難しい。

日本銀行の植田総裁は9月20日の金融政策決定会合後の記者会見で、足もとで進む円高によって、「7月に指摘していた物価見通しの上振れリスクは相応に低下した」とし、さらに「政策判断にあたり、様々なことを確認していく時間的な余裕はある」と説明した。加えて、米国経済の減速リスクを警戒する姿勢を見せた。これに加えて、自民党総裁選の結果次第では、新政権が追加利上げを制約する可能性も考えられる。それに加えて、上記の基調的物価上昇率の下振れ傾向を踏まえると、日本銀行の追加利上げは後ずれのリスクが高まっている。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。