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ハリケーン「ヘリーン」の経済損失は年間GDPの約0.9%に及ぶとの試算も

南部フロリダ州に上陸したハリケーン「ヘリーン」の被害が拡大している。米メディアは3日に、ハリケーンが直撃した南東部の死者が200人を超えたと伝えている。

2005年に南部ルイジアナ州に上陸したハリケーン「カトリーナ」は、1,800人以上の死者を出したが、今回はそれに次ぐ規模の被害となった。

気象予報会社アキュウェザーは3日に、インフラへの壊滅的な打撃や停電の長期化、観光への影響などで、ヘリーンによる損失が2,250億~2,500億ドルに及ぶとの推計を発表した。米国の年間名目GDPの約0.9%にも及ぶ規模であり、短期的には米国経済に相当規模の打撃となる。

バイデン大統領は3日、フロリダ州と南部ジョージア州の被害状況を視察した。2日にも被災した南部のノースカロライナ州とサウスカロライナ州を訪れており、連日の被災地視察となった。

「オクトーバー・サプライズ」の一つになる可能性も

今回のハリケーンは、大統領選挙の行方にも影響を与える可能性がある。ハリケーンの被害が大きかったのは、激戦7州のうちの南部のジョージア州とノースカロライナ州であった。この2つの州では、ハリス氏とトランプ氏の支持率は現在拮抗しているが、ややトランプ氏がリードしている状況だ。

2005年の「カトリーナ」の際には、当時のブッシュ政権の対応が後手にまわり批判を浴びた。それが、2006年の中間選挙での共和党の惨敗に影響を与えた可能性がある。他方で、2012年の大統領選直前のハリケーン「サンディ」の場合には、オバマ大統領の対応が評価され、同年の再選の一因になったともいわれる。

バイデン政権のハリケーン「ヘリーン」への対応の評価は、11月の大統領選挙にプラスにもマイナスにも働く。現在のところは、バイデン政権の対応は比較的評価されるが、被害が長期化するなか、その評価が低下する可能性も残されている。ハリケーン「ヘリーン」は、大統領選挙直前に起こり、選挙結果に大きな影響を与える「オクトーバー・サプライズ」の一つになる可能性があるだろう(コラム「米大統領選前にオクトーバー・サプライズはあるか?:イスラエルのレバノン地上作戦など地政学リスクにも注意」、2024年10月2日)。

郵便投票に影響も

共和党のトランプ大統領候補は、バイデン政権の対応が遅い、との批判を強めている。しかしそうした批判は、かつての自身の失策を国民に思い出させる結果となる可能性もある。トランプ氏は大統領時代、ハリケーンで被災したプエルトリコへの支援が遅れたことや、自身が進める不法移民阻止の取り組みのための資金調達の一環として、自然災害に対応する連邦緊急事態管理庁(FEMA)から資金を移したことを巡り批判を受けていた。ハリケーンへの対応は、ハリス氏に有利になることも、トランプ氏に有利になることもあり得る状況だ。

また、ハリケーンは、技術的な面からも、大統領選挙に影響を与えている。ノースカロライナ州では郵便投票のための投票用紙の配布が始まったばかりだったが、ハリケーンの影響で10を超える選挙事務所が閉鎖され、州内の郵便局も業務を停止した。

(参考資料)
"Hurricane Helene Scrambles Campaign Calculus for Harris and Trump(激戦州のハリケーン被災、米大統領選の波乱要因に)", Wall Street Journal, October 4, 2024
「ハリケーン死者200人超―米、経済損失36兆円超も」、2024年10月4日、共同通信ニュース
「大口献金、争奪激化――ハリケーン、激戦州直撃 一部で期日前投票停止 支援策、勝敗に影響も(米大統領選2024)」、2024年10月4日、日本経済新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。