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9月米CPIは事前予想を上回る

10日に発表された米9月CPIは、前月比+0.2%と事前予想の同+0.1%を上回った。また前年同月比は+2.4%上昇し、前月の同+2.5%を下回ったものの、事前予想の同+2.3%を上回っている。ただし、9月のCPIの前年同月比は、2021年2月以来約3年半ぶりの小幅な上昇率にとどまった。

市場の注目を集めたのは食料・エネルギーを除くコアCPIだ。その前月比上昇率は+0.3%と事前予想の同+0.2%を上回り、さらに前年同月比は+3.3%と、8月の同+3.2%から反転しており、物価上昇率が必ずしも順調に低下していないとの懸念を生じさせた。

中古車・トラックの価格上昇が前月比+0.3%と4か月ぶりに上昇した。そのほか医療関連は同+0.4%、自動車保険は同+1.2%上昇、衣料品は同+1.1%、航空運賃は同+3.2%となった。

他方で、物価上昇を長引かせる要因として注目を集める家賃は、前月比+0.3%の上昇と前月の同+0.4%を下回った。帰属家賃も同+0.3%上昇と、前月の同+0.5%上昇から鈍化しており、先行きの物価上昇率は低下を続けるとの期待を強めている。

次回FOMCで0.25%の利下げ観測が強まる

このように9月CPIはミックスな内容となったが、同時に発表された新規失業者数は事前予想を上回り、雇用情勢の悪化を示唆した。10月5日までの1週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)は、前週比3万3,000件増の25万8,000件と、事前予想の23万件を大きく上回った。南東部を直撃したハリケーン「ヘリーン」などが影響したとみられる。

金融市場は当初9月CPI統計に強く反応し、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が後退して、ドル円レートは一時149円程度の水準まで円安が進んだ。しかしその後は、雇用の悪化を示した新規失業保険申請件数も考慮され、11月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げが見送られるのではなく、9月の0.5%を下回る0.25%幅の利下げが行われるとの見方が強まり、ドル円レートは1ドル148円台半ばで米国での取引を終えた。

金融市場が織り込む11月6~7日のFOMCで0.25%の利下げが行われる確率は約87%となった。金利据え置きの確率は約13%である。

大統領選挙と次回FOMC直前に発表される10月分雇用統計への注目度が高まる

9月17~18日のFOMCでは、0.5%の大幅な利下げが決定された。ボウマン理事のみが0.25%の利下げを主張し、投票権を持つ12人の中で唯一決定に反対票を投じた。しかし、9日に公表された議事要旨では、一部の出席者が「0.25%の方が好ましい」と述べ、別の数人がその決定を支持した可能性を示したと記述された。複数人は0.25%の利下げを前向きに検討していたことが明らかになったのである。

そうしたなか、10月4日に発表された雇用統計が上振れたことから、次回のFOMCでは、利下げ幅が0.25%に縮小されるとの見方が強まったのである。しかし、利下げが見送られるとの見方は少数派だ。FRBの利下げは今後も続けられるとの金融市場の期待は揺らいでいない。

アトランタ連銀のボスティック総裁は10日に、9月CPIを受けて、11月のFOMCで「利下げを休止すべきかもしれない」と述べたと報じられた。ただし同氏は、9月のFOMCの経済見通しで、年内11月と12月に予定されているFOMCで1回分の追加利下げを予想していたとされる。つまり、もともと連続した利下げを支持していなかった少数派の一人と考えられる。

他方、米シカゴ連銀のグールズビー総裁は10日に、9月CPIを受けて、「過度に懸念していない」、「12~18か月間の傾向でみれば、インフレ率は低下している」と述べ、FRBはもはや物価上昇圧力だけを気にすることはないとの考えをあらためて示した。またニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、10日の講演で、米金融当局が担うインフレと雇用という責務達成のリスクバランスが改善しているとし、政策当局が中立金利水準に向けて「時間をかけて」政策金利を引き下げていく(時間的)余地があるとした。

こうした当局者の発言も受けて、11月の次回FOMCでは0.25%の利下げが行われ、また、2025年には政策金利は現在の4.75%~5.0%から3%台にまで引き下げられる、との金融市場の期待が形成されている

ただし、11月1日に発表される10月分雇用統計は、11月6~7日の次回FOMCでの政策決定に大きな影響を与えるだろう。さらにこの雇用統計は、11月5日の大統領選挙直前に発表され、その結果にも影響を与える可能性がある。

この2つの大きなイベントを控え、10月分雇用統計は極めて注目度の高い経済指標となっている。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。