想定以上のインフレ率低下と景気下振れのリスク
欧州中央銀行(ECB)は17日の理事会で、政策金利を0.25%ポイント引き下げる決定をした。2会合連続で、今年3回目の利下げとなる。これは、金融市場の予想通りの決定だ。
声明文では、「ディスインフレのプロセスが順調に進行している」として、インフレ率は「来年下期に目標値に向かって低下する」との従来の見通しを、「来年中に目標値に戻る」と、目標達成時期の見通しを早めた。
実際、インフレ率は想定以上に低下してきている。ユーロ圏(20か国)の消費者物価上昇率は、2022年10月に前年同月比10.6%と過去最高の2桁を記録したが、その後はエネルギー価格の下落などから今年9月には同+1.7%と3年3か月ぶりに2%を下回った。
ラガルド総裁は、足もとで発表された物価指標は、2%の物価目標の達成に向けたECBの自信を改善させるもの、と評価した。ただし、物価の安定回復に向けた障害(neck)はまだ解消されていないとし、「政策金利を十分に景気抑制的な水準に維持する」、「景気抑制の適切な水準と期間を決定するために、引き続きデータ依存かつ会合ごとのアプローチをとる」と説明した。
ただし、2会合連続での利下げを実施したのは、想定以上の物価上昇率の落ち着きによるものだけではない。ECBが景気下振れへの警戒を強めていることもあるだろう。
ラガルド総裁は、「(景気後退)は想定していない」、「引き続きソフトランディングを見込んでいる」としながらも、成長のリスクは依然として下振れ方向に傾いている、との見方を示している。さらに、「コンフィデンスの低下が、消費や投資の回復を妨げる可能性がある」とも指摘した。
ラガルド総裁は、今回の利下げの決定が全会一致であると説明したが、インフレ率が順調に低下しているだけではなく、景気下振れへの警戒が強まっていることが、全会一致での利下げの背景にあるだろう。タカ派で知られるシュナーベル理事も「成長への逆風は無視できない」としている。
ECBの利下げ加速観測とFRBの利下げ減速観測
今回、連続した利下げとなったことは、ECBの利下げペースが加速するとの期待を金融市場で強めるものとなっている。次回12月の理事会でも連続で利下げが見込まれているが、0.5%の利下げ幅になるとの見方も20%程度の確率で金融市場に織り込まれている。また、来年4月まですべての会合で0.25%の利下げが行われる可能性がほぼ完全に市場に織り込まれた。
インフレ率が低下傾向を辿っている点では、ユーロ圏の状況は米国と同様であるが、景気下振れへの懸念については両地域で差がある。この差が、金融政策見通しの差をもたらしている。
米連邦準備制度理事会(FRB)は景気の下振れに先手を打つ観点から、9月に0.5%の大幅利下げに踏み切ったが、その後発表された9月雇用統計などの経済指標が上振れたことから、11月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では、0.25%の利下げ、あるいは利下げ見送りとの見方で金融市場は揺れている。米国では利下げペースの減速期待が強まっており、ユーロ圏とは対照的である。さらに、こうした欧米での金融政策見通しの差は、為替市場でのドル高ユーロ安を後押ししている面がある。
現在、ユーロドルは1ユーロ=1.084ドル程度の水準にあるが、10月に入ってから、3%以上もユーロは下落している。その背景には、ECBとFRBの利下げ見通しの差があるだろう。
このようなペースでユーロ安が進む場合には、年明けには1ユーロの価値が1ドルを下回る「パリティ(等価)割れ」の可能性が出てくる。その場合には、ECBは利下げに再び慎重な姿勢を強める可能性も残されていよう。金融政策が為替によって大きく振られるのは、日本銀行も同様だ。
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