世界経済は勢いを欠く状況が続く
国際通貨基金(IMF)は10月22日、世界経済見通し(WEO)を発表した。前回見通しと比べて修正幅はわずかであるが、2025年の世界経済見通しについては、多くの下方リスクを指摘している。
2025年の世界の成長率見通しは+3.2%と2024年と同水準が見込まれている。安定したペースながらも勢いを欠く成長ペースの持続が予想されている。
米国の成長率見通しは、2024年が0.2%ポイント上方修正され+2.8%に、2025年は0.3%ポイント上方修正されて+2.2%と、潜在成長率に近い巡航速度が予想された。他方で欧州地域の成長率見通しが下方修正された。ユーロ圏の2024年成長率見通しは0.1%ポイント下方修正されて+0.8%、2025年については0.3%ポイント下方修正されて+1.2%となった。特に厳しい状況なのはドイツだ。ドイツの成長率は2023年の-0.3%の後、2024年は0%と、景気後退の状況が続く見通しだ。
足もとで政府による積極的な不動産不況対策、景気浮揚策が打ち出されている中国であるが、成長率の低下傾向には歯止めが掛からない見通しとなっている。成長率は、2023年の+5.2%から、2024年は+4.8%と、政府目標の5%前後と比べて下振れる見通しだ。さらに2025年の成長率見通しは+4.5%と低下傾向が続く。
世界経済の5年後の成長率予測は+3.1%であり、コロナ禍前の平均値と比べると依然さえない数字である。
インフレとの闘いに勝利:3つの経済下振れリスク
IMFは、世界がインフレとの闘いにほぼ勝利したとしている。世界のインフレ率は2022年7-9月期に前年比+9.4%でピークを付けた後、来年末には+3.5%にまで低下する見通しだ。これは、コロナ禍前の20年間の平均を若干下回る水準であり、この通りとなれば、各国のインフレとの闘いは終わることになる。
物価上昇率の低下に大きな役割を果たしたのは、中央銀行の積極的な金融引き締め策だった。今や多くの国で物価上昇率は中央銀行の目標付近で推移しており、多く中央銀行が金融緩和を進める道が開けている。
現状では、大幅な金融引き締め策は、世界経済を失速させることなく、物価の安定回復に貢献しているように見える。ただし、世界経済にはなお下振れリスクは残されている。
IMFが指摘する主な下振れリスクは3つだ。第1は、金融政策があまりに長い間過度に引き締められれば、金融環境が急激にタイト化しかねない、ということである。第2は、中東をはじめとする地域紛争の激化が、一次産品の価格を大きく押し上げ、世界経済に打撃となるリスクだ。そして第3は、保護主義的な貿易政策の広がりだ。
こうしたリスクが顕在化すれば、世界の成長率は、上記のIMFのベースライン予測を大きく下回る可能性がある。
トランプ関税の世界経済への影響は甚大
明示されてはいないが、IMFが大きなリスクと考えるのが、米国でトランプ氏が再選され、そのもとで大規模な追加関税が導入されることだろう。トランプ氏は、中国からの輸入品に一律60%あるいはそれ以上、中国以外の国からの輸入品には一律10%~20%の追加関税を適用するとしている。こうした政策は、世界貿易を縮小させ、世界経済の大きな逆風となる。そして、米国の措置への報復で、他国でも同様な措置が導入されれば、世界に保護主義が蔓延し、経済への打撃はさらに大きくなる。
米国がすべての国からの輸入品に10%の追加関税を導入することを起点に、ユーロ圏、中国がその報復措置をとり、3地域間での輸入品に10%の追加関税が導入されるケースを想定し、IMFはシミュレーションを行っている。その場合、世界全体の財の貿易は25%程度も減少する。それは、世界のGDPの6%にも及ぶ巨額なものだ。
トランプ氏による一律追加関税の導入は、世界経済を一気に後退局面に陥れるインパクトを持っているだろう。ただし、そうしたトランプリスクは、米国民の間や金融市場では十分に認識されていないように感じられる。
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。