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与党は野党との連携を模索へ

10月27日に行われた衆院選挙では、自民党の議席が191議席、公明党が24議席、合計で215議席と、過半数の233議席を下回った。野党第1党の立憲民主党は148議席へと躍進したが、自民党は第一党の地位はなんとか守った。与党は過半数の議席を失ったが、野党第一党の立憲民主党が単独で政権を担うほど議席を伸ばすことはできなかったことから、今後の政権の枠組みについては、自公を中心とする政権になるのか、野党に政権が移るのか、情勢が非常に不確実になる形での選挙結果となった。

目標としていた与党で過半数の議席が維持できなかったことで、自民党の執行部の責任問題が浮上する可能性があるが、石破首相は続投の考えを示唆している。そして、野党の一部と連携する形で政権を維持する姿勢を見せている。いわゆる裏金議員を追加公認することや無所属議員を取り込むことだけでは、与党は過半数の議席を獲得できない。政権を維持するためには野党との連携が必要となる。

政権交代を掲げる立憲民主党が自公との連立政権に入ることは考え難く、自公が取り込む対象は、国民民主党あるいは日本維新の会となるだろう。

他方、立憲民主党は連携が比較的容易な国民民主党、日本維新の会と連携しても過半数の議席を獲得することはできない。立憲民主党は野党勢力を集結した連立政権の樹立を目指す可能性があるだろうが、その道のりは遠く、与党が国民民主党あるいは日本維新の会を取り込む形で政権を維持することを軸に、今後は政治情勢が進んでいくのではないか。

少数与党内閣で不安定な政権運営が続く可能性

ただし、国民民主党、日本維新の会など野党は、与党に組み入れられることで党勢が落ちてしまうことを警戒する可能性がある。その場合、連立政策には加わらず、政策ごとに是々非々で自公政権に協力するとし、首班指名で与党に協力するにとどまる可能性があるだろう。その場合、石破政権は続投となるが、衆院で過半数の議席を持たない少数与党内閣となるため、政治不安はかなり強まるだろう。

かつて少数与党内閣であった羽田内閣は、1994年4月28日から1994年6月30日まで2か月しかもたなかった。衆院で過半数の議席を持たない与党の内閣のもとでは、野党提出の内閣不信任案が可決されやすく、その場合、政権は内閣総辞職、あるいは衆院解散を迫られる。

財政拡張傾向が強まり大型経済対策の実施か

与党が政権を維持するために野党の一部に協力を仰ぐことになる場合、その野党の政策の一部を受け入れることを余儀なくされるだろう。その結果、経済政策はより財政拡張的に、そして金融緩和を継続する方向に修正される可能性がある。

石破首相は、選挙後は補正予算編成を伴う経済対策を実施する考えを示してきた。その規模は国費ベースで昨年の13兆円を上回るとしているが、野党の一部の協力を得る場合には、低所得層に限らずより広範囲な国民を対象とする給付金を支給するなど、規模が大きくなるだろう。さらに将来的には、与党が反対する消費税率の引き下げや消費税の廃止などを、協力する野党から求められる可能性もあるだろう。

国民民主党は基礎控除等を103万円から178万円に引上げ、年少扶養控除を復活させる所得税減税、実質賃金が持続的にプラスになるまで消費税率を一律5%とする消費減税を公約としている。短期的な物価高対策としては、ガソリン価格を引き下げるため、トリガー条項凍結解除、二重課税廃止によるガソリン減税、再エネ賦課金徴収停止による電気代値下げを主張している。日本維新の会も、消費税・所得税・法人税の減税を断行するとしている。

政治の混迷が強まり金融市場は不安定化:日銀追加利上げは先送り方向

金融緩和継続に前向きな野党の影響力が強まることで、日本銀行の追加利上げの時期は先送りされる可能性が高まるだろう。政治不安を映して株安・円高が一段と進む場合には、その可能性はより高まるだろう。追加利上げは来年1月になることを現時点では標準シナリオとするが、金融市場の不安定化が長期化する場合には、さらに後ずれする可能性もある。他方、米国側の要因で円安傾向が強まる場合には、年内の追加利上げの可能性も出てくるのではないか。

政治の混乱が強まり、先行きの政策への不確実性が強まることは、金融市場では株安要因となるだろう。金融緩和継続期待は円安要因となるが、他方で、政治不安を映したリスクオフ傾向は、円高要因となる。この先、円高・株安がスパイラル的に進む可能性もあるのではないか。

28日朝のオセアニア市場でドル円はやや円安に振れているが、日経平均先物は下落している。同日の東京市場で政治不安を映して株価の下落傾向が強まれば、ドル円レートは円高に振れ戻される可能性があるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。