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10月雇用統計はハリケーンの影響で下振れ。大統領選挙に影響も

11月1日には10月分米雇用統計が発表される。これは、11月5日の米大統領選挙、11月6・7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の直前に発表され、2つの大イベントに影響を与える可能性がある。問題は、注目を集めるこの10月分米雇用統計は、9月から10月にかけて米国を襲った「ヘリーン」、「ミルトン」という2つのハリケーンの影響によって大きくかく乱される可能性が高いことだ。

ハリケーンで多くの人々は一時的に仕事を失い、商店や工場、建設現場は閉鎖された。ヘリーンの影響で、新規失業保険申請件数は10月初めにフロリダ、ジョージア、サウスカロライナ、ノースカロライナ、テネシーの各州で増加した。フロリダ州では、ミルトン襲来後も申請が増えた。

雇用統計で注目を集める雇用者増加数は、事業所調査に基づくものだ。その調査は毎月12日を含む1週間で行われる。この間に働かなかった人は、雇用者として計算されない。10月雇用統計の雇用者増加数は、2つのハリケーンの影響で、大きく下振れるとみられる。

他方、短期的に職を失う労働者は比較的低賃金の人が多いと考えられることから、平均賃金はむしろ上振れる可能性がある。また、失業率は別の家計調査統計に基づくことから、ハリケーンによって受ける影響は小さいとみられる。家計調査では、職に就いているものの、ハリケーンなど悪天候の影響で一時的に働けなくなっていると回答した者は、就業状態にあると見なされ、雇用者数として計上される。またスト中の労働者も、就業状態にあると見なされる。

9月の非農業雇用者数は前月比25万4,000人増となった。10月の数字は、ハリケーンに加えて、航空機大手ボーイングのストライキの悪影響も受ける。10月の非農業雇用者増加数の事前予想の平均値は、前月比+10~11万人程度になると予想されている。他方で、失業率は9月と同水準の4.1%程度と見込まれている。

雇用統計がこのような数字になる場合、トランプ氏は、4日後の大統領選挙に向けて、雇用者増加数の下振れを捉えて、バイデン政権の責任を問うだろう。他方、ハリス氏は、雇用者増加数の下振れは一時的な要因によるものとしたうえで、低い失業率をバイデン政権の成果と主張するだろう。

FRBは11月に0.25%の利下げ実施か

10月雇用統計発表の翌週になる11月6・7日には、FOMCが開かれる。雇用統計は、FOMCでの金融政策決定にも影響を与えるだろう。9月18日のFOMCでは、0.5%の大幅利下げが実施されたが、10月上旬に発表された9月の雇用統計で、雇用増加数が事前予想を大きく上回ったことから、先行きの利下げペースは鈍るとの見方が浮上し、これが長期金利の上昇とドル高を促した。

10月29日に発表された9月の求人件数は、2021年1月以来の低水準まで低下した。求人件数は過去2年間、減少傾向を辿っているが、今回の統計では幅広い業界での減少が示された。他方、9月のレイオフ件数は2023年1月以来の高水準まで増加した。自発的離職者の割合である離職率は低下し、新しい職を見つけることが難しくなっていることが示唆された。

金融市場は、11月6・7日のFOMCでは0.25%の利下げを予想する向きが多い。11月1日の10月分米雇用統計が予想よりも大きく下振れれば、0.5%の利下げ観測が浮上するだろう。ただしその統計は、ハリケーンやボーイングのストの影響で歪められており、そこから経済の実態を正確に読み取ることは難しい。

他方で、雇用統計が予想以上に上振れる場合でも、それを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを見送れば、長期金利が一段と上昇し、金融市場と経済を混乱させかねない。 この点から、11月6・7日のFOMCでは0.25%の利下げが実施される可能性が高いと見ておきたい。

(参考資料)
"At a Pivotal Moment, U.S. Economic Data Will Be a Mess (米経済指標、肝要な時期に混乱か)", Wall Street Journal, October 29, 2024

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。