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2020年の大統領選挙では事前の世論調査と実際の選挙結果に大きな差

2020年の大統領選挙の際には、世論調査に基づく事前の調査会社の予測で、バイデン氏がトランプに大きな差をつけて勝利することが見込まれていたが、実際には僅差での勝利となった。僅差での敗北となったことが、トランプ氏が負けを認めずに政権移譲が2週間程度遅れ、その結果、政治空白のような状態を生んだとも言える。また議会襲撃事件の遠因にもなったとも考えられる。この時の記憶があることから、今回の選挙でも世論調査の結果を懐疑的に見る向きが少なくない。

2020年の大統領選挙では、米選挙サイト「ファイブサーティーエイト・ドット・コム」は、大統領選直前の最後の全国調査の平均で、バイデン氏が8.4ポイントという大差でトランプ氏をリードしていた。また政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」による平均でも、バイデン氏は7.2ポイントの差をつけてリードしていた。しかし実際には、得票差は4.5ポイントと事前予想を大きく下回ったのである。

2016年の大統領選挙でも、事前予想を覆して共和党のトランプ氏が勝利した。過去2回の大統領選挙では、事前予測は連続してトランプ氏の得票を過小評価していたことになる。 2016年の大統領選挙では、トランプ氏を最も支持している労働者階級の白人有権者に調査会社が十分にアクセスできていなかったことが、その原因の一つとされた。

今回の選挙では、黒人とラテン系の有権者がトランプ氏支持に傾いていることが世論調査では十分に捕捉されていない、との指摘もある。また、オンライン調査という新たな調査手法が急速に普及しているが、その精度が十分に検証されていないことを指摘する向きもある。例えば、有効性が実証されていないサンプリング方式が採用されている点などである。

事前に正確に予測するのは難しく選挙結果はふたを開けるまで分からない

事前の世論調査と実際の選挙結果との差は、世論調査に回答した人と、実際に投票に行った人との乖離で生じる可能性もある。2020年の選挙では、白人と高齢者の有権者のうち、実際に投票する人の割合が世論調査で過小評価されていたことが明らかになっている。

また、2020年の大統領選挙は、新型コロナウイルス問題の中で実施されたという点で特殊だった。期日前投票を利用する人が増えて、投票率は歴史的高水準に達した。予想外の得票率の高さが、事前の世論調査と実際の選挙結果との差の原因になったとも考えられる。

事前の世論調査では、2回連続でトランプ氏の得票が過少評価となったことから、各調査会社は、問題への対応を進めている可能性もある。しかし、その結果、今度はトランプ氏の得票を過大評価するバイアスを世論調査結果で作ってしまっている可能性もあるのかもしれない。

いずれにせよ、大統領選挙毎に事前調査の精度が着実に高まっていると考えるのは誤りであり、今回も事前の世論調査と実際の選挙結果との差が大きく開く可能性に考慮しておかねばならないだろう。選挙結果を事前に正確に予測するのは難しく、結局は、ふたを開けるまで選挙結果は分からない。

(参考資料)
"The Pollsters Blew It in 2020. Will They Be Wrong Again in 2024? (米大統領選の世論調査、また失敗を繰り返すのか)", Wall Street Journal, October 24, 2024

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。