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建設国債と赤字国債の違いは?

衆院選挙の公約で、国民民主党は「教育国債」の発行を掲げた。これは長らく国民民主党が提案してきたことだ。教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的な経費であることから、赤字国債とは区別した教育国債の発行でその財源を賄えるように、財政法を改正して、これらの支出を公債発行対象経費とすることを主張しているのである。そのうえで、教育国債を毎年5兆円発行し、教育・科学技術予算を年間10兆円規模に倍増させるとしている。

現在、教育国債なるものは存在しない。国債には、普通国債とそれ以外の国債(財投債、出資・拠出国債、交付国債等)がある。普通国債には、建設国債、特例国債(赤字国債)、復興国債がある。ただし、国債の大半は建設国債、特例国債(赤字国債)だ。

国債発行による資金調達自体が、例外的措置と法的には位置付けられている。財政法第4条第1項は、「国の歳出は原則として国債又は借入金以外の歳入をもって賄うこと」と規定しているが、ただし書きにより公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、例外的に国債発行又は借入金により調達することが認められている。この財政法第4条第1項ただし書きに基づいて発行される国債が建設国債だ。

建設国債は60年で償還されるルールとなっている。60年かけて償還することで、将来の人が支払う税金もその償還財源に使われる。公共事業の結果作られる道路や設備などは、将来の人も使うものであることから、将来世代もそれを負担することが正当化されるのである。

建設国債を発行しても、なお歳入が不足すると見込まれる場合には、政府は公共事業費以外の歳出に充てる資金を調達することを目的に、特例公債法に基づき、国債を発行する。これが特例国債であり、赤字国債とも呼ばれる。

建設国債自体が異例なものであるが、例外の中のさらに例外であるのがこの赤字国債だ。それにもかかわらず、赤字国債は1994年度以降、財政赤字の穴を埋めるために毎年発行されている。例外的なものが常態化してしまっている。さらに、この赤字国債にも建設国債と同様に60年償還ルールが適用され、60年かけて償還することが認められているが、それを正当化する根拠はないだろう。

教育国債の説明には無理があるのではないか

国民民主党は、財政法の改正によって、教育関連の支出を賄う国債に、建設国債と同様のステータスを与えようとしているのだろう。しかしその考え方にはかなり無理があるのではないか。

建設国債は、将来世代も享受する政府サービスは将来世代も負担するのが適切、という考えに基づき発行されるものだ。しかし、教育サービスなどはもっぱら現役世代が享受するものであり、現役世代がその対価を税金で支払うことが適切だ。

国民民主党は「教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的な経費」と説明しているが、これは行き過ぎた拡大解釈だろう。例えば国防費は、国民の安全を守ることで、将来の成長や税収を保障するもの、と主張するようなものではないか。

国民民主党は、イメージが悪い赤字国債という言葉を使いたくないのだろうが、教育国債の本質は赤字国債であることに変わりはない。103万円の壁対策として大規模な所得減税を実施すれば、その財源を見つけることは難しく、最終的に国債発行によって賄うことになると考えられる。その場合、その国債を赤字国債と呼ばずに別の名称で呼ぶことが仮にあるとしても、その実態は赤字国債であることに変わらない点は気を付けておくべきだ。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。