「トリプルレッド」となるか
民主党大統領候補のハリス氏が大統領選挙での敗北を認めたことで、共和党大統領候補のトランプ氏の再選が確定した。
11月6日の東京市場では、トランプ氏の勝利を織り込んで、円安株高が急速に進んだ。同日の米国市場でもダウ平均株価は終値で1,500ドルを超える大幅高となった。トランプ氏が掲げる、減税、規制緩和などへの期待が背景にある。
ただし、大幅株高となった背景の一つには、トランプ氏が勝利を収めたことで、前回2020年の選挙のように、トランプ氏が敗北を認めず、政権移譲が円滑に進まないことや、暴動が生じるといったリスクがかなり小さくなった、との見方もあるだろう。
金融市場がなお注目するのは大統領選挙と同時に行われた議会選挙の行方だ。その結果が確定するまでにはなお時間がかかるが、現時点では上院では共和党が過半数を超える52議席の獲得を確定しており、民主党から過半数を奪回した(AP通信、ABCニュースなど)。
下院では共和党の獲得議席が204議席と民主党の187議席を上回っており、過半数の218議席に迫っている。下院でも共和党が過半数を得れば、ホワイトハウスと上下両院を制する「トリプルレッド」あるいは「レッド・スウィープ」となる。そうなれば、トランプ氏が掲げる減税、規制緩和などの政策の実現可能性が高まるとの期待から、株価が一段高となる可能性があるだろう。
トランプトレードは早くも息切れか
他方、それでも一段のドル高となるかどうかは不確実だろう。それは、トランプ氏勝利をドル高要因と考える金融市場の根拠は、主にトランプ氏が掲げる追加関税にあるからだ。そして追加関税は、大統領の権限で実行できるため、議会勢力の影響を受けない。
「トリプルレッド」を織り込んで、米株が一段高となっても、ドル高円安が一巡すれば、日本株の強い追い風にはならない可能性がある。11月7日の東京市場では、朝方にドル高円安に頭打ち感が見られ、また日経平均株価は一時400円以上も下落している。まだ判断はできないが、トランプトレードの大きなうねりは一日で終わった印象もある。
トランプトレードのドル高円安、株高のロジックに危うさ
実際、トランプ氏が掲げる追加関税がドル高要因であるかは不確実だ。追加関税導入による物価高が、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを遅らせる、あるいは再利上げを強いることなどから、ドル高をもたらすとの説明であるが、そのロジックは危ういのではないか。
前回の追加関税とは異なり、今回はすべての輸入品目を対象にする一律の追加関税引き上げを掲げており、その貿易、経済への打撃は甚大となる可能性がある。追加関税引き上げによる物価への影響は比較的一時的な現象である一方、それが明確に経済を悪化させれば、FRBの金融政策はいずれ大幅利下げを強いられるとの見方から、ドル安要因になると見る方が自然なのではないか。
さらにトランプ氏は、自身が大統領になれば、FRBに利下げをさせるとし、また、大統領はFRBの金融政策に関与すべきだと主張している。それを、法改正を通じて実現することを検討している、との報道もなされている。FRBへの政治介入は中央銀行及び通貨の信認を低下させてドル安要因となる。また、FRBの利下げが促されるのであれば、それもドル安要因だ。
追加関税導入は日本経済、企業に大きな打撃
トランプ氏が掲げる中国からの輸入品に一律60%の追加関税導入、その他の国からの輸入品に一律10%の追加関税導入、移民流入への強い規制が導入された場合、米国のGDPは2%程度低下する可能性が見込まれる。
また、トランプ氏が日本からの輸入品に一律10%~20%の追加関税を導入すれば、日本からの対米輸出には大きな打撃となる。追加関税の影響で米国経済が悪化する場合にはその影響も加わる。関税の影響を回避するため、日本企業が米国での生産を増やせば、その分、日本での生産や雇用は減少してしまう。このように、トランプ氏の保護主義的な政策が日本経済や日本企業に与える悪影響は深刻だ。こうした点を踏まえると、トランプトレードで日本株高、という状況は長くは続かないのではないか。
トランプトレードの持続性が日銀の追加利上げ時期に影響か
トランプトレードがいつ大きく見直されるかは予想が難しいが、早ければトランプ政権が発足する前の今年中にも、それは起こりうるのではないか。
ところで、トランプトレードは日本銀行の金融政策にも大きく影響する。トランプ政権発足から時間をおかずに、トランプ氏は追加関税など保護主義的な政策を打ち出す可能性がある。前回のトランプ政権では、就任の翌年(2018年)からトランプ氏は保護主義的な政策に着手した。就任の年(2017年)は、減税を優先したのである。しかし今回は減税の優先度はそれほど高くないことから、就任の年から保護主義的な政策を進める可能性があるだろう。
日本銀行は、米国経済の情勢を重視しているが、トランプ氏の具体的な政策を見極めるまで追加利上げを見送る訳ではないだろう。追加利上げの時期に大きく影響するのはドル高円安だ。トランプトレードがなお続き、1ドル155円~160円の水準が定着し、政府が為替介入に動く情勢となれば、日本銀行は12月18・19日の次回金融政策決定会合で追加利上げに動く可能性が高まるのではないか。
他方、トランプトレードが早くに息切れし、円安の流れが一巡する場合には、不安定な国内政治情勢を考慮に入れて、日本銀行は年内の追加利上げを見送り、1月の会合での追加利上げを決める可能性が考えられる。現状では後者を標準シナリオとしたい。
先般の衆院選で躍進した国民民主党の玉木代表は、日本銀行の利上げを牽制しており、それも日本銀行の追加利上げを一定程度制約するのではないか。玉木代表は、来年の春闘の前に日本銀行は利上げをすべきではない、とも主張している。しかし、日本銀行は内外の経済、金融情勢に大きな変化がない限り、春闘後の来年3月の会合まで追加利上げを先送りすることはないだろう。
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