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米国10月分CPIは予想通りも円安が進む

13日に発表された米国10月分CPIは、前月比+0.3%と3か月連続で同水準の上昇率となった。また前年同月比は+3.6%と前月と同水準だった。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアCPIは前月比+0.2%と4か月連続で同率の伸びとなった。前年同月比は+2.6%と9月の同+2.4%から上昇率を高めた。これは、今年3月以来である。これらの数字は事前予想通りであったが、物価上昇率の低下傾向が鈍っている、あるいは足踏みしていることを裏付けるものとなった。

中古車の価格は前月比+2.7%と、この1年余りの間で最大の上昇率となった。またホテル宿泊費は同+0.4%上昇している。これらは、ハリケーン「ヘリーン」と「ミルトン」による被害や避難命令の影響を反映している可能性があり、一時的な側面があることは否めない。

また、コア財(除く食料、エネルギー)は前月比0.0%と前月の同+0.2%から低下し、コアサービス(除くエネルギー)も前月比+0.3%と前月の同+0.4%から低下しており、物価上昇率の低下傾向は続いていると言える。

事前予想通りとなった同統計の発表を受けて、ドルは一時下落した後上昇に転じ、ドル円レートは1ドル155円台の水準を固めた。さらに14日の東京市場では1ドル156円に接近している。

12月に0.25%の利下げ観測が強まる

金融市場では、10月CPIが予想通りであったことを受けて、来月12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利下げが実施されるとの見方が強まった。金融市場に織り込まれたその確率は、統計発表前の50%台から80%程度にまで上昇した。金融市場は来年6月までに合計で0.6%程度の利下げを織り込んでいる。

12月に0.25%の利下げが行われれば、FF金利の水準は4.25%~4.5%となり、9月に示されたFOMCの予測平均値と一致する。また、2025年中に合計で1.0%の利下げがFOMC見通しの平均値となっている。その場合、0.25%刻みの利下げが2025年に4回実施される計算となる。これは2回に1回のFOMCで利下げが行われるペースである。来年、毎会合での連続利下げがいつ終わるのかも、大きな注目点だ。

政府のドル売り円買い介入は従来よりも容易か

 ドル円レートが1ドル155円台に乗せ、さらに156円に接近してきていることに、日本政府は警戒を強めているだろう。今年7月の政府の為替介入などをきっかけに、1ドル161円台から9月には一時139円台まで円安修正が進んだが、既にその「3分の2戻し」の水準となっている。

今後ドル円レートが1ドル160円に近づくようであれば、その前に政府はドル売り円買いの為替介入に踏み切ると見ておきたい。現在、米国政府は政権移譲の中にあることから、日本の為替介入に対する米財務省の牽制は従来ほどには強くなく、日本政府にとっては為替介入を実施しやすい時期と言えるだろう。また、来年1月にトランプ政権が発足すれば、日本政府のドル売り円買い介入はより容易になる可能性がある。トランプ次期大統領はドル安志向が強いためだ。

1ドル160円を大きく超えて円安が進むことは避けられるか

現時点で与党や国民民主党などは、日本銀行の利上げに慎重な姿勢を示しているが、円安が一段と進み、ドル円レートが1ドル160円に接近し、政府が為替介入を実施する場合、日本銀行にも円安阻止に向けた政府との協調策の実施を求め、追加利上げ容認に動くのではないか。

そこまで円安が進まないことを前提に、政治的な制約を受ける日本銀行の利上げは来年1月まで後ずれすることをメインシナリオとしたいが、上記のようなケースとなれば、日本銀行は12月の会合で利上げに踏み切るだろう。2つのシナリオの確率はかなり接近してきている。

政府の為替介入と為替の安定を意識した日本銀行の利上げという為替の安定に向けた協調策がとられることで、1ドル160円を大きく超えて円安が進むことは避けられると見ておきたい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。