エネルギー補助金制度の延長と半導体・AI分野への公的支援策が含まれる
政府は11月中に総合経済対策をまとめる。経済政策を巡って与党と国民民主党との協議が続けられているが、議論はなお煮詰まっていないとみられる。両者間での合意が遅れる場合には、国民民主党が求める「103万円の壁」対策などの政策は、総合経済対策と切り離す形での対応となるのではないか。
石破首相は、衆院選挙前には、昨年の経済対策の国費で13兆円を上回る規模の経済対策にする考えを示していた。産経新聞は、現在、補正予算で一般会計に計上される国費部分が13.5兆円規模とすることが議論されていると報じている。
現時点での経済対策案では、住民税非課税世帯に1世帯あたり3万円を目安に給付すること、このうち子育て世帯には子ども1人あたり2万円を加算することが盛り込まれている。
また、10月末で終了した電気・ガス代の補助制度は、冬季に使用量が増えることを踏まえて来年1月に再開して3月まで継続する。
年内を期限としていたガソリン補助金は、2025年3月まで延長する方向だ。国民民主党が補助金に反対してガソリン税のトリガー条項凍結解除という減税での対応を求めていることを踏まえて、補助金を2024年12月から段階的に縮小していくことも検討されている。
また、経済対策には半導体・AI分野への公的支援策も含まれる(コラム「ラピダス支援を念頭に政府は10兆円の半導体・AI支援を決定:安易な支援がむしろ事業失敗のリスクを高め、国民負担増とならないよう慎重な対応が求められる」、2024年11月12日)。政府は2030年度までに10兆円以上の支援を行うとしているが、このうち次世代半導体の研究開発補助金などに6兆円程度、政府による出資や債務保証などの金融支援に4兆円以上が充てられるとされる。
その財源は、政府が保有するNTT株や日本たばこ産業(JT)株の配当などを収入とする財政投融資特別会計(特会)から2.2兆円程度が確保される。また、基金からの国庫返納金や、政府が売却を進める商工組合中央金庫株の売却収入などで1.6兆円程度が賄われる。そして、脱炭素社会の実現に向けた国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」などでも2.2兆円程度を賄うことが見込まれている。
住民税非課税世帯への給付金総額は3,500億円程度と推定
昨年の2023年の経済対策では、住民税非課税世帯に1世帯あたり7万円と18歳以下の児童1人あたり5万円が給付され、その総額は1兆500億円と見積もられた。
令和4年国民生活基礎調査によると、住民税非課税世帯は全体の24.2%の構成比だった。世帯総数は同年に5,431.0万であったことから、住民税非課税世帯数は1,314.3万程度と推定される。この世帯に7万円ずつ給付金を支給すると、総額は9,200億円となる計算だ。残りの1,300億円が住民税非課税世帯の子供への給付額と推定されるが、これを5万円で割ると住民税非課税世帯の子供の数は260.0万人となる。
上記の試算結果を用いると、今回の経済対策で、1,314.3万の住民税非課税世帯数に3万円の給付を行うと、その総額は3,942.9億円となる。さらに同世帯の260.0万人の子どもに2万円ずつ給付すると、その額は520.0億円となる。両者を合計すると3,462.9億円となる。
また、こうした一時的な給付が消費に回される割合は低く、過去の定額給付金と同様に25%程度が消費に回るとの前提で計算すると、給付がGDPを押し上げる効果は1年間で0.015%と推定される。
エネルギー補助金の増額は1兆2,000億円程度と推定
ガソリン価格抑制の補助金制度は2022年1月に始まり、現在も続けられている。電気・ガス料金の支援は2023年1月に始められ、2024年5月末に一度打ち切られたが、8月から10月の3か月間復活した。政府は年内を期限としていたガソリン補助金を2025年3月まで延長する一方、電気・ガス料金の支援を来年1月から3月の3か月間再開する。
予備費からの支出も含め、ガソリン補助金の予算累計は7兆1,395億円、電気・ガス料金支援の予算累計は3兆9,614億円、合計で11兆1,009億円に達した計算だ。それぞれ1か月当たりの平均支出額を計算すると、ガソリン補助金は1,983億円、電気・ガス料金支援は1,981億円となる。
それぞれ3か月分の支出が今回の経済対策に織り込まれるとすると、それぞれ予算規模は5, 949億円、5,943億円となる。合計は1兆1,892億円だ。
一時的な給付金と同様に、一時的な補助金による価格低下分は25%程度が個人消費に回るとの前提で計算すると、エネルギー補助金がGDPを押し上げる効果は1年間で0.05%と推定される。
半導体・AIの公的支援策は9,000億円程度と想定
政府は2030年度までに半導体・AI分野へ10兆円以上の公的支援策を実施するとしている。2024年度から2030年度までの7年間で10兆円の支出を行うとすると、1年あたりで1.4兆円となる。それは、2025年度予算から毎年計上されると考えられるが、2024年度補正予算、つまり今回の経済対策にも1年分計上されると仮定しよう。
その内訳について、次世代半導体の研究開発補助金などに6兆円程度、政府による出資や債務保証などの金融支援に4兆円以上が充てられる、とされる。後者は主にラピダスの支援と考えられるが、ラピダスの先端半導体の量産化に5兆円の銀行融資が必要であり、その多くの部分に政府が融資保証を付けることが予想される。それは、一般会計には入ってこない。また、直接景気浮揚効果を生むものではない。
経済対策を賄う今回の補正予算に計上される半導体・AI分野への公的支援策は、年平均の1,4兆円程度のうち半分の7,000億円と想定しよう。そのうち、投資的な支出が3,000億円程度、補助金などが4,000億円程度と考える。投資的な支出の場合、8割程度はGDPの押し上げに直接貢献し、さらにその乗数効果も生じると考える。他方、補助金の場合には、企業の設備投資押し上げ効果は4分の1程度にとどまると考える。
経済対策の経済効果の現時点での荒い想定
以上3つの項目の合計は、2兆2,400億円程度となる。また、その経済効果はGDPを1年間で0.13%程度押し上げられると概算される。
それ以外に経済対策に盛り込まれる可能性が高いのが、例年盛り込まれる国土強靭化計画だ。それは投資的な支出の割合が大きいため、景気浮揚効果も高めとなる。また、能登半島の豪雨災害への対策も盛り込まれるだろう。国土強靭化計画と災害関連の支出は、昨年の経済対策では6.1兆円盛り込まれたが、今回はそれを上回る7.5兆円と想定した。
それ以外の支出を含め、経済対策のうち補正予算で賄われる真水部分は、報道されているように13.5兆円と想定した。その場合、GDPの押し上げ効果は現時点での概算で1%弱である。
図表 経済対策(国費、真水部分)の現時点での想定
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