ビットコインはトランプ・トレードの代表的商品に
ビットコインは、米大統領選でトランプ氏が勝利を収めて以降、わずか4週間で40%以上の上昇を見せた。12月4日には、トランプ氏が米証券取引委員会(SEC)の次期委員長に、暗号資産(仮想通貨)慎重派のゲンスラー現委員長に代えて暗号資産推進派のポール・アトキンス氏を起用するとした人事案を示したことが最後の一押しとなり、史上初めて10万ドルの大台に乗せた。
米大統領選後のビットコインの価格高騰は、トランプ氏が実施する規制緩和、減税、追加関税などのマクロ経済政策が、米国経済に追い風となる楽観論に支えられてきた面がある。ビットコインはリスクオンで買われたトランプ・トレードの代表的商品となったのである。
さらに、トランプ氏は大統領選挙期間中に、暗号資産への懐疑的な姿勢を一転させ、暗号資産の推進派に転じた。「米国を暗号資産の首都にする」として、ビットコインを国が保有する考えを打ち出した。実際、米国が国としてビットコインを購入し保有すれば、ビットコインの需給は改善し、ビットコインの価格をさらに押し上げる可能性がある。
エルサルバドル政府が保有するビットコインに巨額の含み益が発生
国がビットコインを準備通貨(リザーブ)として保有している例が、エルサルバドルにある。エルサルバドルは、2021年に世界で初めてビットコインを法定通貨として導入し、国家予算を動員してビットコインを買い増した。法定通貨としたからには、国あるいは中央銀行がビットコインをリザーブとして保有するのは自然なことだ。エルサルバドル政府は、これを「戦略的ビットコイン準備金(SBR)」と名付けた。
コロナ禍でのブームが去ってビットコインの価格が大幅に下落していた2022年11月時点では、エルサルバドルのSBRは60%台の含み損を抱えていた。ところが2024年に入りビットコインの価格が急騰したため、今年11月時点で含み利益が約90%にも達していたという。ブケレ大統領は5日に、SNSに「我が国のビットコイン残高は(購入時に)支払った金額より3億4,400万ドル以上増加している」と投稿し、自らの実績を誇示した。
エルサルバドル政府はビットコインで大儲けをしたが、一方で法定通貨となったビットコインは、3年程度経っても、国内ではあまり利用されていない。フランシスコ・ガビディア大学が10月に発表した調査結果によると、調査に応じたエルサルバドル人の92%がビットコインを「使っていない」と回答した。
そして、エルサルバドル政府は法定通貨としてのビットコインの政策を修正することを余儀なくされる可能性が出てきた。英紙フィナンシャル・タイムズによると、エルサルバドルは世界銀行、米州開発銀行からもそれぞれ10億ドルの新規融資を確保できる可能性があるというが、国際通貨基金(IMF)がその交換条件として要求したのが、ビットコイン政策の見直しだったという。
ブータンは政府がビットコインのマイニングを主導
エルサルバドルに続いて国がビットコインを保有しているのがブータンだ。ブータン政府は現在、GDPの約3分の1にも相当する約9億ドルに達するビットコインを保有しているとされる。ブータン政府が保有しているビットコインは、市場で購入したものではなく、すべてマイニング(採掘)で得たものだ。政府の命令によってあるマイニング企業がビットコインのマイニングを手掛けているという。
エルサルバドル型かブータン型かで価格への影響が異なる
トランプ氏は政府がビットコインをリザーブとして保有する考えを示しているが、上記のエルサルバドル型か、ブータン型かによって、ビットコインの価格への影響は異なってくる。
エルサルバドルのように政府資金を用いてビットコインを購入するのであれば、ビットコインの価格を押し上げる。他方、ブータンのように、政府主導でビットコインのマイニングを実施するのであれば、他のマイナーとの競争に勝って政府がビットコインの新規発行分を得るだけである。ビットコインの需給には大きく影響せず、価格押し上げ効果は目立って生じないだろう(政府はビットコインを容易に売却しない、との期待が価格にプラスに働く可能性はある)。
米国政府のビットコイン保有はハードルが高いか
ただし、いずれの形式にせよ、米国の現行法で米国政府のビットコイン保有が可能かどうかは慎重に検討してみる必要があるだろう。トランプ氏がビットコインをリザーブとして保有したいと言っても、上下両院で与党の共和党がわずかに過半数を制する程度の新議会が、それを阻む可能性も十分にあるだろう。
また、仮に、政府資金でビットコインを購入し、リザーブとする場合、ビットコインの価格が大きく上昇して含み益が生じる場合は良いが、価格が大きく下落して含み損が生じる場合には、国民の税金を無駄にしたとの批判を浴びるなど、大きな政治問題へと発展するリスクもある。
ビットコインの高いボラティリティは今後も変わらない
このように考えると、トランプ氏が言うビットコインの政府保有も簡単なことではないはずだ。そのため、その実現を期待してビットコインを買い進めることには相応のリスクがあるだろう。
さらに冒頭で述べたように、トランプ氏が実施する経済政策への楽観論に基づくトランプ・トレードが見直されれば、その代表的な商品であるビットコインが最も大きく売られる可能性もある。
トランプ氏が支援するからといって、価格変動率(ボラティリティ)が極めて高いというビットコインなど暗号資産の本来持つ特性が変わる訳ではない。その本質的な価値が不明確であるがゆえに、ビットコインの高いボラティリティはこの先も変わらないだろう。
(参考資料)
"Bitcoin Hits $100,000, Lifted by Hopes of a Crypto-Friendly
Washington(ビットコイン10万ドル突破、トランプ政権の好意的政策への期待で)", Wall Street Journal, December 5, 2024
「「1日1BTC」エルサルバドルのジャックポット・・・60%損害→90%収益「大当たり」」、2024年11月12日、中央日報
「ビットコイン10万ドル「国策に売りなし」 投機に懸念も」、2024年12月6日、日本経済新聞電子版
「エルサルバドル、仮想通貨の義務撤廃も IMF融資に向け」、2024年12月10日、日本経済新聞電子版
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