日本銀行は次回会合で多角的レビューの取りまとめを公表
前回10月31日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合後の記者会見で植田総裁は、今まで取り組んできた多角的レビューについて、「次回12月の金融政策決定会合において引き続き議論を行ったうえで、内容を取りまとめ、会合後に公表する」と発言した。
多角的レビューとは、植田総裁にとって初めの参加であった2023年4月27・28日の金融政策決定会合後に公表された対外公表文で示されたものであり、過去25年にわたる非伝統的な金融政策の効果と副作用を検証するプロジェクトの総称だ。その対外公表文では、多角的にレビューについて、以下のように説明されていた。
「わが国経済がデフレに陥った1990年代後半以降、25年間という長きにわたって、『物価の安定』の実現が課題となってきた。その間、様々な金融緩和策が実施されてきた。こうした金融緩和策は、わが国の経済・物価・金融の幅広い分野と、相互に関連し、影響を及ぼしてきた。このことを踏まえ、金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うこととした。」
多角的レビューとは何か
多角的レビューの期間について、ここでは「1年から1年半程度」とされたが、現在の2024年12月は、多角的レビューの実施が表明されたこの2023年4月、あるいは多角的レビューの実施方針が示された2023年7月から計算して概ね「1年半程度」のタイミングにあたる。
ところで、2023年7月に示された実施方針では、日本銀行の独自の新規の分析に加えて、さくらレポート、生活意識調査などの既存の調査・サーベイ等の活用、金融経済懇談会などでの意見交換、ワークショップの開催、海外識者との意見交換、などを実施する考えが示された。なお、これらについては、日本銀行の専用ウェブサイトで随時掲載されてきた。
非伝統的な金融政策について効果と副作用を両論併記か
12月19日に示される「多角的レビューの取りまとめ」は、今まで蓄積されてきたものの集大成となるだろう。従って、新しい意見、結論が打ち出される訳ではなく、サプライズは大きくないと考える。
これまで示されてきた多角的レビューは、25年間続いた非伝統的金融政策の効果と副作用の併記という印象であり、効果と副作用を比較考量した上で非伝統的金融政策全体を評価したものではない。
さらに、非伝統的金融政策の評価とは直接的に関わらない、物価、賃金、中立金利などについての学術的分析も多く示されてきた。12月19日に示される「取りまとめ」もその延長線上となろう。
植田総裁は、非伝統的金融政策の副作用を警戒しているか
2023年4月に多角的レビューを実施する考えが示された当初は、日本銀行はその結果を踏まえて、順次、金融政策の正常化を進めていく、との見方もあった。
しかし実際には、多角的レビューの結果と直接連動する形でなく、2023年7月と10月にイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化、2024年3月にマイナス金利政策解除、7月に追加利上げが実施されていった。
2024年3月のマイナス金利政策解除時に、日本銀行は短期金利を主たる政策手段とする伝統的金融政策の枠組みへと一気に転換した。物価が上昇し、非伝統的金融政策を続ける環境ではなくなった、というのが表面的な説明ではあったが、それでも非伝統的金融政策に未練がないかのような思い切った決断だった。
この点を踏まえても、植田総裁自身は、長らく行われてきた資産買い入れ策、マイナス金利政策、イールドカーブ・コントロールといった非伝統的金融政策については、その効果には懐疑的である一方、副作用については警戒的な考えを持っていたのではないかと推察される。
副作用よりも効果の分析により重点が置かれたものとなる可能性
しかし、非伝統的金融政策の副作用を強調することは、黒田体制のもとでの異例の金融緩和や植田総裁がかつて審議委員として自身も関与した非伝統的金融政策を否定してしまうことになってしまう。それを避け、日本銀行としての政策の連続性を重視するのであれば、両論併記的なレビューにとどめることは、致し方ない面があるだろう。
さらに実際には、効果と副作用を併記し、非伝統的金融政策全体の明確な評価を避けるだけでなく、日本銀行が進めてきた政策を肯定するために、効果の方をより強調する自画自賛的な分析となる可能性があるだろう。
非伝統的金融政策を再び導入することを余儀なくされる際に役立つか
それでも、2008年のリーマンショック以降、海外の主要中央銀行が相次いで資産買い入れ策やマイナス金利政策を導入しながらも、その効果や副作用の検証を積極的に実施していないのと比べれば、それに取り組もうとする日本銀行の姿勢は一定程度評価できるだろう。
先行き、経済・金融環境が悪化し、日本銀行が再び非伝統的金融政策を採用せざるを得ない状況に追い込まれる場合に、選択肢の中からどの政策手段を選択すべきか、あるいはどのように運用すべきか、などについて判断を迫られる。その際に、今回の多角的レビューが大きなヒントをくれるとの考えを、植田総裁は持っているのではないか。
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