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17日に成立した今年度補正予算には、ガソリン補助金を2025年1月以降も続ける措置が盛り込まれた。他方で、12月19日から補助金を縮小し始め、ガソリン価格の緩やかな上昇を認めることも決められた。

12月9日時点でガソリン価格(レギュラー)の全国平均は1リットル175.7円だ。政府が14.3円の補助金を行っており、それがなければ190.0円である。政府は、これを12月19日からは補助金を削減することで、2~3週間かけて1リットル180円程度へ、2025年1月16日からは、さらに補助金を削減することで、同じく2~3週間かけて185円程度へと引き上げる予定だ。消費者にとっては、最終的に、現在と比べて1リットル10円程度ガソリン価格が上昇することになる。

2023年の1世帯当たり(2人以上)のガソリン消費額は7万237円だった。ガソリン価格が平均で約10円、現在のガソリン価格で約5.7%上昇すると、家計の負担は年間4,004円程度増える計算となる。
2023年夏にも、政府はガソリン補助金の廃止に向けて、補助金を段階的に縮小したが、その際には毎週ガソリン価格が上昇する事態を受けて、世論の反発が強まり、政府は補助金制度の延長に追い込まれた。その際には、1リットル160円台から補助金を全て削減していき、1リットル200円程度まで大幅に上昇する可能性があった。しかし今回は、10円程度の上昇にとどまることから、当時のような強い世論の反発は起きないのではないか。

ところで、自民、公明、国民民主3党が12月11日に、ガソリン税に上乗せされている「暫定税率」の廃止で合意した。これが実現すれば、ガソリン価格は1リットル当たり25.1円安くなる。そうなれば、ガソリン価格は13.6%程度下落し(1リットル185円で計算)、家計の負担は一転して年間9,552円程度減少する計算となる。ただし、暫定税率をいつ廃止するかは決まっていない。再来年以降となる可能性も考えられる。

ガソリン価格の上昇幅が大きくないことや、暫定税率の廃止でいずれガソリン価格が大きく下落する見通しであることから、昨年夏に見られたような、ガソリン価格上昇に伴う大きな混乱は生じないとみられる。

長期化したガソリン補助金には、財政負担を増加させること、市場メカニズムを歪めること、脱炭素政策に逆行するなどの問題点も多い。この点から、補助金を縮小していくことは適切と考える。ただし、暫定税率を廃止すれば、税収は年間1.5兆円程度も減少する。その財源確保をしっかりと確保することが必要だろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。