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次回2025年1月のFOMCで利下げは見送られる可能性が高まる

米連邦準備制度理事会(FRB)は、12月17・18日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利(FF金利の誘導目標)を0.25%ポイント引き下げる決定をした。3会合連続での利下げである。これで政策金利は4.25%~4.5%となった。

パウエル議長は、政策は依然として「有意に景気抑制的」であり、委員会は「利下げを継続する方向にある」としている。

0.25%ポイントの利下げは事前予想通りの決定であったが、予想外であったのは、先行きの利下げペースが大幅に鈍化する見通しが示されたことだ。FOMC参加者によるFF金利の見通しによると、2025年末のFF金利見通しの中央値は、前回9月時点の3.4%から3.9%へと0.5%ポイントの大幅上方修正となった。これは、来年の利下げ回数の見通しが、0.25%幅の利下げで4回から2回へと半減したことを意味する。他方、2026年のFF金利見通しの中央値は0.5%の利下げ、2027年は0.3%の利下げとなった。

FOMC参加者によるFF金利の見通しで、2025年の利下げ幅は縮小すると事前に予想されていたが、縮小幅は事前予想を上回った。先行きの利下げ期待の後退を受けて、18日の米国為替市場では1ドル155円近くまでドル高円安が進む一方、ダウ平均株価は1000ドルを超える大幅下落となった。

パウエル議長は、利下げ方向の見通しは変わらないとしながらも、政策金利をピークから1%ポイント引き下げたことにより、「現在の政策スタンスは顕著に景気抑制の度合いが弱まった」とも指摘している。これは、急速な利下げ局面から、様子見局面へと移行することを示唆していよう。次回2025年1月のFOMCでは、利下げは見送られる可能性が高まっている。

追加関税の影響が物価見通しに一部織り込まれた可能性

2025年のFRBの金融政策については、トランプ次期政権の経済政策の影響も注目を集めた。記者会見で追加関税の影響を問われ、パウエル議長は、「一部の政策当局者はトランプ次期政権が実施する可能性のある追加関税の潜在的な影響を織り込み始めた」と説明した。2025年のPCEの見通しは、9月の2.1%から、今回2.5%に引き上げられたが、追加関税導入の可能性が影響したことが考えられる。

ただしパウエル議長は、トランプ次期政権の追加関税については「あまり分かっていない」とし、「何らかの結論を出そうとするのは時期尚早だ」とした。

ちなみに、追加関税は米国の物価押し上げ要因となる一方、景気の下振れ要因ともなる。つまり、スタグフレーションのリスクを高める。そうした場合、通貨は下落しやすいのが通例だ。

物価高を受けてFRBが利下げに慎重になると、その分景気の下振れリスクが高まり、いずれ大幅な利下げが必要になるとの見方が生じ、通貨安要因となる。実際、追加関税による物価高は一時的なものであり、それがFRBの利下げを妨げるとしても、比較的短期間となるのではないか。

FRBの利下げペース鈍化は日銀の年明け以降の利上げを後押しか

日本銀行は12月19日の金融政策決定会合で、政策金利を据え置く可能性が高まっている。他方で、2025年1月には追加利上げに踏み切ることが現時点では予想される。

FRBが利下げに動く中で日本銀行が利上げに動くことは、為替市場や国際資金フローに予期せぬ影響を生む可能性があり、日本銀行の利上げの制約要因の一つとなっていると考えられる。19日の金融政策決定会合でも、FRBの利下げが実施された直後の利上げを避けたいと日本銀行が考えることが、利上げ先送りの理由の一つであることも考えられる。

他方、FRBが利下げのペースを今後顕著に鈍化させ、1月あるいは当面の利下げを見送るのであれば、それは日本銀行の年明け以降の追加利上げを後押しすることになるだろう。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。