利上げ見送りの理由は春闘とトランプ政策を見極めるため
日本銀行は12月19日の金融政策決定会合で、金融政策を維持する決定をした。植田総裁はその後の記者会見で、その決定の背景などについて説明した。
植田総裁は、基調的な物価上昇率は予測期間の後半に目標の2%に向けて上昇していく見通しであり、そのもとで引き続き利上げを進める考えを説明した。他方で、今回の会合で利上げを見送った理由として、来年の春闘に向けた賃上げのモメンタムを確認するために、もう少し(ワンノッチ)情報を待ちたいということ、日本経済にも大きな影響を与える可能性がある米国のトランプ次期政権の追加関税策の中身について、もう少し情報を待ちたいということ、の2点を説明した。
しかし、春闘についても、トランプ次期政権の関税策についても、その全容をいつになれば把握できるのかは分からない。春闘については、来年3月に大手企業では賃上げの妥結があるが、中堅・中小企業の賃上げ動向を見極めるまでにはかなり時間がかかる。また、トランプ次期政権の関税策についても、1月20日の大統領就任日に一部を打ち出す見込みであるが、その全容がいつ明らかになるかはわからない。
植田総裁が利上げを見送りした理由にこの2つを挙げた結果、次回利上げの時期が来年1月の金融政策決定会合ではなく、3月あるいはそれ以降に後ずれするとの観測も市場に浮上した。その結果、ドル高円安が一段と進んだ。
植田総裁は、基調的な物価上昇率は予測期間の後半に目標の2%に向けて上昇していく見通しであり、そのもとで引き続き利上げを進める考えを説明した。他方で、今回の会合で利上げを見送った理由として、来年の春闘に向けた賃上げのモメンタムを確認するために、もう少し(ワンノッチ)情報を待ちたいということ、日本経済にも大きな影響を与える可能性がある米国のトランプ次期政権の追加関税策の中身について、もう少し情報を待ちたいということ、の2点を説明した。
しかし、春闘についても、トランプ次期政権の関税策についても、その全容をいつになれば把握できるのかは分からない。春闘については、来年3月に大手企業では賃上げの妥結があるが、中堅・中小企業の賃上げ動向を見極めるまでにはかなり時間がかかる。また、トランプ次期政権の関税策についても、1月20日の大統領就任日に一部を打ち出す見込みであるが、その全容がいつ明らかになるかはわからない。
植田総裁が利上げを見送りした理由にこの2つを挙げた結果、次回利上げの時期が来年1月の金融政策決定会合ではなく、3月あるいはそれ以降に後ずれするとの観測も市場に浮上した。その結果、ドル高円安が一段と進んだ。
国内政治情勢も利上げを後ずれさせる可能性
植田総裁は、この2つの要因について、その全容が明らかになるまで追加利上げをしない訳ではなく、随時入手できる情報を踏まえて、会合ごとに総合的に判断して利上げの時期を決める、と説明した。来年1月会合での利上げの可能性も排除しなかったのである。
筆者は、追加利上げを後ずれさせると、円安が一段と進み、物価高から個人消費を損ねるなどの問題を生じさせることから、最終的には来年1月の金融政策決定会合で追加利上げを決めることを、メインシナリオと現状では考えている。しかし、利上げの時期が3月以降に後ずれする可能性についても、考慮しておかねばならないだろう。
さらに、国内政治情勢も、利上げ時期を後ずれさせる可能性がある。今年度の補正予算は一部野党の協力によって可決されたが、来年度予算については、野党の協力を得て円滑に可決されるかどうかは分からない情勢だ。予算の成立が遅れる見通しとなれば、経済活動への悪影響も懸念されるようになるだろう。その場合、日本銀行の追加利上げは後ずれする可能性がある。
筆者は、追加利上げを後ずれさせると、円安が一段と進み、物価高から個人消費を損ねるなどの問題を生じさせることから、最終的には来年1月の金融政策決定会合で追加利上げを決めることを、メインシナリオと現状では考えている。しかし、利上げの時期が3月以降に後ずれする可能性についても、考慮しておかねばならないだろう。
さらに、国内政治情勢も、利上げ時期を後ずれさせる可能性がある。今年度の補正予算は一部野党の協力によって可決されたが、来年度予算については、野党の協力を得て円滑に可決されるかどうかは分からない情勢だ。予算の成立が遅れる見通しとなれば、経済活動への悪影響も懸念されるようになるだろう。その場合、日本銀行の追加利上げは後ずれする可能性がある。
日米政策金利がほぼ同時に逆に動くことのリスク
また、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げとの日本銀行の利上げとが重なることで、国際資金フロー、為替市場を動揺させてしまうリスクを日本銀行が警戒したことも、今回利上げを先送りした理由の一つとして考えられる。FRBは米国時間の18日に3会合連続となる0.25%の利下げを決めた。仮に日本銀行が19日に追加利上げを決めていれば、ごく短期間で日米の政策金利が逆に動くことになる。
今年8月の歴史的な日本株の下落の背景には、日米政策金利が逆方向に動くとの観測でドル円レートが急速に円高に振れたことがあった。こうしたリスクの再燃を日本銀行は引き続き警戒しているだろう。
しかし来年1月の決定会合では、同様の問題は生じない。またFRBは、18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.25%の利下げを決めると同時に、先行きの利下げペースが大きく鈍化するとの見通しを示した。1月のFOMCでは、FRBが利下げを見送る可能性が高まっている。こうした環境は、年明け後の日本銀行の利上げを後押しするだろう。
今年8月の歴史的な日本株の下落の背景には、日米政策金利が逆方向に動くとの観測でドル円レートが急速に円高に振れたことがあった。こうしたリスクの再燃を日本銀行は引き続き警戒しているだろう。
しかし来年1月の決定会合では、同様の問題は生じない。またFRBは、18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.25%の利下げを決めると同時に、先行きの利下げペースが大きく鈍化するとの見通しを示した。1月のFOMCでは、FRBが利下げを見送る可能性が高まっている。こうした環境は、年明け後の日本銀行の利上げを後押しするだろう。
市場との対話という課題は来年に持ち越し
19日の記者会見での植田総裁の説明は、全体的に金融市場が予想していたよりもハト派的であった。FRBの利下げペースが鈍化するとの見方が強まる中、日本銀行が利上げを後ずれさせるとの観測が強まれば、円安が一気に進む可能性があった。そこで植田総裁は、早期の追加利上げの実施を示唆し、円安をけん制すると筆者は予想していた。
しかし実際には、そうしたタカ派色の強い発言は聞かれず、さらに足元では輸入物価に落ち着きが見られるとして、円安を容認するかのような発言もしたのである。その結果、海外市場では1ドル157円台へとさらに円安が進んでしまった。
金融政策を巡る植田総裁の発言は、会合ごとに大きく振れている。10月の会合後の記者会見では、「時間的余裕がある」との表現を今後は使わないと宣言し、早期利上げの観測を強めるタカ派的な発言をしていた。9月の会合後の記者会見は、8月の金融市場混乱の直後でもあり、ハト派的な発言が目立った。その前の7月の会合後の記者会見では、先行き利上げを進める考えを示し、タカ派色が目立っていた。
こうした会合ごとの発言の大きな振れは、金融市場を混乱させる要因ともなっている。日本銀行は今年3月にマイナス金利政策を解除し、7月に追加利上げを行うなど、金融政策の正常化を進めてきた。その中で、市場との円滑な対話が、来年に向けた大きな課題として日本銀行には残ったのではないか。
しかし実際には、そうしたタカ派色の強い発言は聞かれず、さらに足元では輸入物価に落ち着きが見られるとして、円安を容認するかのような発言もしたのである。その結果、海外市場では1ドル157円台へとさらに円安が進んでしまった。
金融政策を巡る植田総裁の発言は、会合ごとに大きく振れている。10月の会合後の記者会見では、「時間的余裕がある」との表現を今後は使わないと宣言し、早期利上げの観測を強めるタカ派的な発言をしていた。9月の会合後の記者会見は、8月の金融市場混乱の直後でもあり、ハト派的な発言が目立った。その前の7月の会合後の記者会見では、先行き利上げを進める考えを示し、タカ派色が目立っていた。
こうした会合ごとの発言の大きな振れは、金融市場を混乱させる要因ともなっている。日本銀行は今年3月にマイナス金利政策を解除し、7月に追加利上げを行うなど、金融政策の正常化を進めてきた。その中で、市場との円滑な対話が、来年に向けた大きな課題として日本銀行には残ったのではないか。
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