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歳出改革の取り組みがなされるもとでも歳出は過去最大を更新

政府は2025年度当初予算案の編成を行い、27日に閣議決定を行う方針だ。一般会計総額は115.5兆円程度で最終調整中と報じられている。2024年度の一般会計総額は12年ぶりに前年度水準を下回ったが、2025年度は、2023年度当初の114.4兆円を超えて過去最大となる。

物価高の影響で歳出額が増える面はあるものの、歳出抑制の取り組みが十分に機能していない面もあるだろう。

2025年度予算案で歳出全体の約3分の1を占める、医療、年金、介護など社会保障関係費は38兆円超えと、過去最大となる見込みだ。政府は、2025年8月から高額療養費制度の見直しを検討しており、自己負担の限度額を引き上げる。約650万~約770万円の世帯の1か月あたりの限度額は約13.8万円で、現在よりも約5.8万円高くなる。高額療養費制度の見直しによる歳出抑制額は、1,100億円程度と見積もられている。

これ以外にも、2025年度には薬価引き下げなどが実施されるが、こうした歳出改革が行われるもとで、高齢化などの影響による歳出拡大圧力は強い。

また、歳出全体の約4分の1を占める国債の元利返済に充てる国債費も28.2兆円程度と、2024年度の27.0兆円を上回り過去最大となる。

その理由の一つは、市場金利が上昇していることを踏まえて、国債の想定金利を引き上げることだ。政府は、国債利払い費の前提となる積算金利を、今年度の1.9%から2.0%に引き上げる予定である。2024年度当初予算で、積算金利は17年ぶりに引き上げられていた。市場金利の上昇や積算金利の引き上げが、財政の規律を高める方向に働くことを期待したい。

一般予備費は24年度当初と同額の1兆円を計上する一方、批判が強まっていた物価高対応や賃上げ促進などを目的とする予備費については、当初予算では5年ぶりに計上しない方針だ。

他方、歳入では、税収は78.4兆円程度台となる見通しだ。2024年度補正予算での税収見積りの73.4兆円を上回り、6年連続で過去最高を更新する。物価上昇による事実上の課税強化、いわゆるインフレタックスの影響に加え、今年度実施された定額減税を来年度は実施しないことなどが税収を増加させる要因となる。

新規の国債発行額は28.6兆円程度と、当初予算としては4年連続で減少する見通しだ。

少数与党のもと最終的な予算はさらに膨張か

例年であれば、政府が与党の税制改正大綱と予算案を閣議決定すれば、翌年度の税制改正、予算執行など経済政策の多くは年内に決まることになる。

しかし、今年はそうはならない。衆院で少数与党となった政権は、税制改正案、予算案で野党の要望を受け入れざるを得ず、その結果、予算は膨張し、財政赤字は拡大しやすい。来年、与党の税制改正案、政府の予算案がどのように修正されるのかは、現時点では読めない面がある。

例えば、立憲民主党と日本維新の会、国民民主党の野党3党が共同提出した「学校給食法改正案」と日本維新の会が求める高校の教育無償化を2025年度予算に組み入れれば、その分、一般歳出額は1兆円以上膨らむことになる(コラム「野党3党が給食無償化法案を共同提出」、2024年12月25日)。

政策の取捨選択を

与党が議席の過半数を占めていた際には実現されなかった政策が、野党の政策を反映させていくことで実現されるようになるというプラスの面があることは確かだ。しかし、野党が自らの党の公約を実現するために、政策協力と引き換えに様々な政策の実現を要求するようになると、予算は膨張の一途をたどる。

それに対して十分な財源確保がなされない場合には、国債発行でその穴埋めがされる。国債発行は、低所得者も含む幅広い国民の将来の税金で賄うことを前提とするものであり、将来の国民の手取りを減らすことにもなってしまう。将来まで見据えれば、野党各党が目指す低所得者層の負担軽減、手取りの増加に逆行してしまうのである。

野党側が新たな歳出増加を求める場合には、他の歳出を削減する、あるいは新たな増収策を図るなど、財源確保の案についてもしっかりと示し、メリハリの利いた形で政策の取捨選択を提案することが求められよう。

(参考資料)
「25年度予算案、過去最大115.5兆円 税収も最高78.4兆円」、2024年12月25日、日本経済新聞電子版

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。