非農業部門雇用者数は事前予想を大きく上回る
米労働省が10日に発表した2024年12月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比25万6,000人増と、事前予想の平均である15万5,000人増程度を大きく上回った。昨年後半にかけて、雇用増加のペースは幾分高まった。
12月は在宅医療サービス、介護・居住型介護施設、病院などで4万6,000人の雇用が増加した。また、年末商戦の堅調を反映して、小売業の雇用者は4万3,000人増加した。11月には2万9,000人減少していた。レジャー・接客業は4万3,000人増加した。
一方で、製造業の雇用者は1万3,000人減少した。減少の大半が半導体や電子部品関連だった。10、11月分の雇用者数は合計で計8,000人下方改定された。
失業率は11月の4.2%から4.1%へと低下した。事前予想の平均は4.2%だった。政府は、失業率を含む家計調査データを過去5年間分見直したが、失業率への影響は軽微となった。時間当たり賃金は前月比+0.3%、前年同月比+3.9%とそれぞれ11月分の+0.4%、+4.0%を若干下回ったが、これは事前予想通りである。
2月7日に発表される次回1月分の雇用統計には、非農業部門雇用者数の年次改定が反映される。昨年8月に発表された推計値では、2024年3月までの1年間の雇用者増が81万8,000人の下方修正となることが示された。これは景気後退(リセッション)期だった2009年以来の大きさだが、最終的にどの程度修正されるのかが注目される。
12月は在宅医療サービス、介護・居住型介護施設、病院などで4万6,000人の雇用が増加した。また、年末商戦の堅調を反映して、小売業の雇用者は4万3,000人増加した。11月には2万9,000人減少していた。レジャー・接客業は4万3,000人増加した。
一方で、製造業の雇用者は1万3,000人減少した。減少の大半が半導体や電子部品関連だった。10、11月分の雇用者数は合計で計8,000人下方改定された。
失業率は11月の4.2%から4.1%へと低下した。事前予想の平均は4.2%だった。政府は、失業率を含む家計調査データを過去5年間分見直したが、失業率への影響は軽微となった。時間当たり賃金は前月比+0.3%、前年同月比+3.9%とそれぞれ11月分の+0.4%、+4.0%を若干下回ったが、これは事前予想通りである。
2月7日に発表される次回1月分の雇用統計には、非農業部門雇用者数の年次改定が反映される。昨年8月に発表された推計値では、2024年3月までの1年間の雇用者増が81万8,000人の下方修正となることが示された。これは景気後退(リセッション)期だった2009年以来の大きさだが、最終的にどの程度修正されるのかが注目される。
「利下げ局面は終わった」との見方も
12月分雇用統計を受けて、金融市場では米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が一段と後退している。1月28・29日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げ見送りとの見方が既に強いコンセンサスとなっていたが、雇用統計発表後には、3月のFOMCでも利下げが見送られる確率が7割強、5月も利下げ見送りの確率が6割ほどとなった。市場のコンセンサスは、雇用統計発表以前の5月の利下げから、6月以降の利下げへと一段と後ずれしている。
米シカゴ連銀のグールズビー総裁は、雇用統計について、労働市場が完全雇用で安定化しつつあることを示唆しているものであり、景気過熱の兆候ではないとの考えを示した。さらに、「インフレ率が上昇することなく2%近辺で推移し、安定かつ完全雇用が伴う場合は、金利は私が中立と見なす水準に下がるべきだ」とし、「今後12-18か月には、現行水準よりもかなり下がっているだろう」と利下げ局面がなお続くとの見方を示した。
しかし金融市場では「利下げ局面は終わった」との見方も出てきており、この先利上げ観測が生じれば、長期金利の上昇、株価下落など金融市場は大きく混乱する可能性がある。
米シカゴ連銀のグールズビー総裁は、雇用統計について、労働市場が完全雇用で安定化しつつあることを示唆しているものであり、景気過熱の兆候ではないとの考えを示した。さらに、「インフレ率が上昇することなく2%近辺で推移し、安定かつ完全雇用が伴う場合は、金利は私が中立と見なす水準に下がるべきだ」とし、「今後12-18か月には、現行水準よりもかなり下がっているだろう」と利下げ局面がなお続くとの見方を示した。
しかし金融市場では「利下げ局面は終わった」との見方も出てきており、この先利上げ観測が生じれば、長期金利の上昇、株価下落など金融市場は大きく混乱する可能性がある。
楽観的なトランプトレードは見直し
予想外に上振れた今回の雇用統計を受けて、10日の米国市場では長期金利が上昇した。10年利回りは4.8%直前まで上昇し、2023年以来の高水準となった。30年債利回りは2023年11月以降で初めて5%台を付けた。
利上げ観測の後退と長期金利上昇を受けて、ドル円レートは雇用統計発表直後に1ドル159円直前まで円安が進んだが、その後は米国株が大幅に低下したことを受けてドル安が進み、1ドル157円台に戻っている。
10日のダウ平均株価は、終値で700ドル近い大幅下落となった。これは昨年11月4日以来の水準であり、大統領選挙前の水準に戻っている。トランプ氏の勝利を受けたトランプトレードは、株価についてはほぼ解消されたことを意味する。
雇用統計が、米国内になおインフレリスクが残ることを示す中、トランプ次期大統領が、追加関税や移民規制強化などで経済の減速とインフレリスクを共に高める政策を行えば、現在の米国経済の安定性は損なわれる、との懸念が生じているのである。そうなれば、FRBはインフレリスクと景気減速リスクの板挟みとなり、政策運営が難しくなる。さらにそうした中で、トランプ次期大統領は、FRBに追加利下げを求める可能性が高い。そのような政治的要因も加わって、FRBの先行きの政策には不確実性が高まっており、それが金融市場のボラティリティを高めているのである。
FRBの利下げが後ずれすることは、日本銀行の利上げを助ける要因である。しかし、トランプ氏の政策は、日本経済の下方リスクを高めかねず、日本銀行もその行方も慎重に見極めることが当面は求められる。
利上げ観測の後退と長期金利上昇を受けて、ドル円レートは雇用統計発表直後に1ドル159円直前まで円安が進んだが、その後は米国株が大幅に低下したことを受けてドル安が進み、1ドル157円台に戻っている。
10日のダウ平均株価は、終値で700ドル近い大幅下落となった。これは昨年11月4日以来の水準であり、大統領選挙前の水準に戻っている。トランプ氏の勝利を受けたトランプトレードは、株価についてはほぼ解消されたことを意味する。
雇用統計が、米国内になおインフレリスクが残ることを示す中、トランプ次期大統領が、追加関税や移民規制強化などで経済の減速とインフレリスクを共に高める政策を行えば、現在の米国経済の安定性は損なわれる、との懸念が生じているのである。そうなれば、FRBはインフレリスクと景気減速リスクの板挟みとなり、政策運営が難しくなる。さらにそうした中で、トランプ次期大統領は、FRBに追加利下げを求める可能性が高い。そのような政治的要因も加わって、FRBの先行きの政策には不確実性が高まっており、それが金融市場のボラティリティを高めているのである。
FRBの利下げが後ずれすることは、日本銀行の利上げを助ける要因である。しかし、トランプ氏の政策は、日本経済の下方リスクを高めかねず、日本銀行もその行方も慎重に見極めることが当面は求められる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。