日銀利上げ観測が強まり155円台までの円高
15日の為替市場では、ドル高円安の修正が進んだ。東京市場で、朝方1ドル158円程度で推移していたドル円レートは、午後に入ると1ドル156円台まで円高に振れ、さらに海外市場では1ドル155円台を付けた。16日の東京市場では、さらに155円台半ば程度まで円高に振れた。
ドル円レートが円高に振れるきっかけとなったのは、15日に日本銀行の植田総裁が、来週23、24日に開く1月の金融政策決定会合で「利上げを行うかどうか議論し、判断する」と述べ、金融市場で利上げ観測が強まったことがある。
さらに米国市場では、12月の米国CPI(消費者物価統計)を受けて、ドル安円高がさらに進んだ。12月のCPIは前月比+0.4%と前月の同+0.3%から加速し、3月以来9か月ぶりの上昇率となった。また前年同月比も+2.9%と前月の同+2.7%を上回り、昨年7月以来の上昇率となった。
他方、変動の大きい食料・エネルギーを除くコアCPIは、前月比+0.2%、前年同月比+3.2%となり、前月のそれぞれ+0.3%、+3.3%を下回った。金融市場はコアCPIにより大きく反応し、金融緩和期待がやや強まることで長期金利が低下し、ドル円レートはドル安円高に振れた。
それでも、米連邦準備制度理事会(FRB)が当面は利下げを見送るとの観測は変わらず、6月以降の利下げ観測がやや強まった程度だ。
さらに、イスラエルとイスラム組織ハマスがガザ地区での停戦で合意したことも、リスク回避のドル買いの流れの巻き戻しから、ドル安要因になっている可能性があるだろう。
ドル円レートが円高に振れるきっかけとなったのは、15日に日本銀行の植田総裁が、来週23、24日に開く1月の金融政策決定会合で「利上げを行うかどうか議論し、判断する」と述べ、金融市場で利上げ観測が強まったことがある。
さらに米国市場では、12月の米国CPI(消費者物価統計)を受けて、ドル安円高がさらに進んだ。12月のCPIは前月比+0.4%と前月の同+0.3%から加速し、3月以来9か月ぶりの上昇率となった。また前年同月比も+2.9%と前月の同+2.7%を上回り、昨年7月以来の上昇率となった。
他方、変動の大きい食料・エネルギーを除くコアCPIは、前月比+0.2%、前年同月比+3.2%となり、前月のそれぞれ+0.3%、+3.3%を下回った。金融市場はコアCPIにより大きく反応し、金融緩和期待がやや強まることで長期金利が低下し、ドル円レートはドル安円高に振れた。
それでも、米連邦準備制度理事会(FRB)が当面は利下げを見送るとの観測は変わらず、6月以降の利下げ観測がやや強まった程度だ。
さらに、イスラエルとイスラム組織ハマスがガザ地区での停戦で合意したことも、リスク回避のドル買いの流れの巻き戻しから、ドル安要因になっている可能性があるだろう。
日本銀行は来週の利上げに向け市場の地均しか
日本銀行の氷見野副総裁は14日の講演で、「来週の金融政策決定会合では、『展望レポート』にまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断したいと思います」と発言した。通常、日本銀行がこのような表現を用いる場合には、次の金融政策決定会合で利上げの実施をほぼ決めているケースが多いだろう。さらに、 植田総裁は15日に、全国地方銀行協会の会合であいさつし、来週の金融政策決定会合で「利上げを行うかどうか議論し、判断する」と述べた。ダメ押しするかのように、総裁も同様の発言をしたことは、金融市場に対する利上げの地均しと読むことができるだろう。
ブルームバーグ社は16日、複数の関係者の話として、次の金融政策決定会合で、日本銀行が追加利上げを実施する公算が大きい、と報じた。実際のところ、来週に利上げが実施される可能性は高まっていると考えられる。金利スワップ市場も、来週の0.25%の利上げの可能性を8割程度織り込んでいる。
ブルームバーグ社は16日、複数の関係者の話として、次の金融政策決定会合で、日本銀行が追加利上げを実施する公算が大きい、と報じた。実際のところ、来週に利上げが実施される可能性は高まっていると考えられる。金利スワップ市場も、来週の0.25%の利上げの可能性を8割程度織り込んでいる。
ぎくしゃくした市場との対話が続く
植田総裁は、昨年12月の決定会合後の記者会見で、利上げを見送りした理由に、トランプ次期政権の経済政策と春闘の2つを見極める必要があることを挙げた。春闘の賃上げ妥結は大企業で今年3月になり、また、トランプ次期政権の経済政策が見えてくるのにも時間がかかるとの見方から、金融市場では、次の利上げは今年3月、あるいはそれ以降までずれ込む、との見方が強まり、為替市場ではドル高円安が進んだ。
このように、昨年末に大きく後ずれした利上げ時期を巡る金融市場の期待を、年明け後に日本銀行は再び前倒ししようと、やや強引な情報発信をしているようにも見える。昨年来、日本銀行の市場との対話はぎくしゃくした状況が続いているのである。
日本銀行は、経済・物価が見通し通りのオントラックであれば、徐々に金利を引き上げて行くことを基本的な姿勢としている。他方、利上げの時期については、見通しの上下双方のリスクを高める要因をチェックしながら決めるとの考えだ。現状では、経済、物価見通しの下方リスクを高める要因として、春闘の賃上げ見通しとトランプ次期政権の経済政策の2つを挙げている。
このように、昨年末に大きく後ずれした利上げ時期を巡る金融市場の期待を、年明け後に日本銀行は再び前倒ししようと、やや強引な情報発信をしているようにも見える。昨年来、日本銀行の市場との対話はぎくしゃくした状況が続いているのである。
日本銀行は、経済・物価が見通し通りのオントラックであれば、徐々に金利を引き上げて行くことを基本的な姿勢としている。他方、利上げの時期については、見通しの上下双方のリスクを高める要因をチェックしながら決めるとの考えだ。現状では、経済、物価見通しの下方リスクを高める要因として、春闘の賃上げ見通しとトランプ次期政権の経済政策の2つを挙げている。
トランプ次期政権の経済政策に不確実性は残る
ただし、春闘の賃上げ見通しについては、利上げのハードルとしては高くないだろう。日本銀行は、昨年と同様に高い賃金上昇率が維持されれば、賃金と物価の好循環は維持されるとの説明を、仮に来週利上げを実施した場合にはするだろう。
賃上げの動向について植田総裁は、「年初の各界の方々の発言や、支店長会議で聞いた全国の状況は、前向きの話が多かった」と評価している。これは、賃上げのハードルはクリアされつつある、とのメッセージのように読める。
定期昇給分を含む賃上げ率は、昨年の春闘では5%強であるのに対して、今年の春闘では5%弱というのが民間予測機関の平均値だ(日経センターの集計で4.7%)。それでも高水準を持続しているという状況であり、利上げは可能というのが日本銀行の説明となるのではないか。
他方、トランプ次期政権の経済政策については、より不確実性が高い。氷見野副総裁は、トランプ次期政権の経済政策については、1月20日の大統領就任演説である程度推し量ることできるとしているが、その説明にはやや無理があるのではないか。
賃上げの動向について植田総裁は、「年初の各界の方々の発言や、支店長会議で聞いた全国の状況は、前向きの話が多かった」と評価している。これは、賃上げのハードルはクリアされつつある、とのメッセージのように読める。
定期昇給分を含む賃上げ率は、昨年の春闘では5%強であるのに対して、今年の春闘では5%弱というのが民間予測機関の平均値だ(日経センターの集計で4.7%)。それでも高水準を持続しているという状況であり、利上げは可能というのが日本銀行の説明となるのではないか。
他方、トランプ次期政権の経済政策については、より不確実性が高い。氷見野副総裁は、トランプ次期政権の経済政策については、1月20日の大統領就任演説である程度推し量ることできるとしているが、その説明にはやや無理があるのではないか。
利下げの「のりしろ」確保も視野に
仮に来週利上げを実施した場合には日本銀行は、「トランプ次期大統領が掲げる経済政策は、世界経済、米国経済、日本経済の下方リスクを高めるものが多いが、それでも、今まで示されていないような予想外の経済政策が示されず、追加利上げの妨げにはならなかった」と説明するだろう。
トランプ次期政権の経済政策によって日本の経済、物価の下振れリスクが顕著に高まる事態に備え、その前に利下げの「のりしろ」を一定程度確保しておきたいとの考えも日本銀行にはあるのではないか。
ただし、トランプ次期大統領が就任演説やその直後に発する大統領令などで、経済を悪化させかねない予想外の政策を打ち出し、金融市場が動揺する場合には、日本銀行は来週の利上げを見送るだろう。この点から、来週の利上げ実施はなお確実なものとは言えない。
トランプ次期政権の経済政策によって日本の経済、物価の下振れリスクが顕著に高まる事態に備え、その前に利下げの「のりしろ」を一定程度確保しておきたいとの考えも日本銀行にはあるのではないか。
ただし、トランプ次期大統領が就任演説やその直後に発する大統領令などで、経済を悪化させかねない予想外の政策を打ち出し、金融市場が動揺する場合には、日本銀行は来週の利上げを見送るだろう。この点から、来週の利上げ実施はなお確実なものとは言えない。
政治サイドの動きが利上げ時期の決定に大きな影響を与えているか
日本銀行が利上げ時期の判断に大きな影響を与える要因として、春闘とトランプ次期政権の経済政策の2つに絞り、特定するのは、やや異例なことではないか。なぜそのような情報発信を行っているのかはっきり分からないが、一つの可能性として考えられるのは、政治サイドへの対応があるのかもしれない。
政治サイドでは、日本銀行の利上げで賃金と物価の好循環が崩れてしまうリスク、トランプ次期政権の経済政策によって、日本経済が大きく悪化してしまうリスクを指摘する向きが少なくないと考えられる。日本銀行としては、その2つに十分に配慮したとの証拠づくりを行ったうえで、利上げに踏み切る戦略なのではないか。
加藤財務相は15日の記者会見で、「具体的な金融政策そのものは日銀で判断してもらう」とした上で、「政府、日銀の間ではアコードを踏まえながら、日銀は日銀としてその役割を果たしてもらっている」、「政府と日銀はいろいろな意味で緊密な連携を取っているが、それを踏まえた上で2%の物価安定目標の持続的、安定的な実現、言い方を変えればデフレ脱却に向けて、適切な金融政策が運営されていくことを期待している」と述べた。
この発言からは、政府は、日本銀行の利上げを本音では支持しておらず、利上げを牽制しているようにも見える。また、国民民主党の玉木代表は、日本銀行の利上げは春闘の結果を見るまで実施すべきではないと発言してきた。
為替動向に加えて、政治サイドの動きが、日本銀行の利上げ時期の決定に大きな影響を与えているとみられる。
政治サイドでは、日本銀行の利上げで賃金と物価の好循環が崩れてしまうリスク、トランプ次期政権の経済政策によって、日本経済が大きく悪化してしまうリスクを指摘する向きが少なくないと考えられる。日本銀行としては、その2つに十分に配慮したとの証拠づくりを行ったうえで、利上げに踏み切る戦略なのではないか。
加藤財務相は15日の記者会見で、「具体的な金融政策そのものは日銀で判断してもらう」とした上で、「政府、日銀の間ではアコードを踏まえながら、日銀は日銀としてその役割を果たしてもらっている」、「政府と日銀はいろいろな意味で緊密な連携を取っているが、それを踏まえた上で2%の物価安定目標の持続的、安定的な実現、言い方を変えればデフレ脱却に向けて、適切な金融政策が運営されていくことを期待している」と述べた。
この発言からは、政府は、日本銀行の利上げを本音では支持しておらず、利上げを牽制しているようにも見える。また、国民民主党の玉木代表は、日本銀行の利上げは春闘の結果を見るまで実施すべきではないと発言してきた。
為替動向に加えて、政治サイドの動きが、日本銀行の利上げ時期の決定に大きな影響を与えているとみられる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。