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中国に対して10%の一律追加関税を2月1日にも実施決定へ

20日に就任したトランプ大統領は、初日に行われるとみられていた追加関税の大統領令の署名を見送った。金融市場では、トランプ大統領の追加関税に向けた強硬姿勢が軟化した、との見方も一時浮上した。しかしその後にトランプ大統領は、2月初めにメキシコとカナダに予定通りに25%の一律関税を課す考えを明らかにした。

また、それと同様に、初日に一律追加関税の大統領令に署名するとしていた中国への10%一律関税については、実施を見送った理由として、中国政府がトランプ政権1期目に合意した第1段階の貿易合意を順守したかどうか調査するため、と説明された。

さらにトランプ大統領は21日に、中国から合成オピオイドの一種フェンタニルが米国に流入しており、中国がそれを厳格に取り締まらないことへの報復として、中国からの輸入品に対して一律10%の追加関税を課すことを引き続き検討していることを明言した。その時期は「恐らく2月1日を考えている」とし、来月にも実施の可能性があることを示唆したのである。

トランプ大統領は17日に中国の習近平国家主席と電話会談を行うなど、対話重視の姿勢も見せており、中国に対する関税強化の姿勢が軟化しているのではとの金融市場の期待はぬか喜びとなった感がある。

すべての国に一律関税を課すことを検討

トランプ大統領が一律追加関税の対象とするのは、これら3か国だけではない。21日には、「他の国々も米国にひどいことをしており、中国だけでない」とし、「米国の対欧州連合(EU)貿易収支は3,500億ドルの赤字で、彼らはわれわれを非常に不当に扱っている。彼らは関税の対象になるだろう」とし、EUも追加関税の対象とする考えを明らかにしたのである。

トランプ大統領は20日には、「米国でビジネスをしているすべての国に一律関税を課す」とも述べている。ただし、その措置を講じる「準備はまだできていない」と説明した。メキシコ、中国、カナダ、ドイツに続いて米国輸入相手先第5位の日本も、早晩、名指しで追加関税のターゲットとなる可能性は否定できない。

一律関税を法的に正当化する作業が難航しているか

トランプ大統領が、従来予告していた就任初日の追加関税に関わる大統領令の署名を見送ったのは、態度を軟化させたからではないだろう。問題は、一律追加関税という、一期目のトランプ政権が実施しなかった追加関税を、大統領の権限で実施することを法律で正当化する手段を模索しているためだろう。すべての国に一律関税を課すことを検討していると言いつつも、「準備はまだできていない」と説明した主な背景もこの点にあるのではないか。その作業は当初の想定よりも簡単ではなく、難航している可能性がある。

それに加えて、追加関税を課す場合にそれを主導する商務長官、米通商代表部(USTR)代表、財務長官がまだ上院で承認されていないことも、追加関税の実施が後ずれしている理由ではないかと推察される。

USMCAの早期見直しも目指す

トランプ大統領は、カナダとメキシコからの輸入品に一律25%の追加関税を課すばかりでなく、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)について、早ければ来週にも再交渉を開始するよう両国に圧力をかけているようだ。第1期のトランプ政権は、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新たな協定として、USMCAを締結した。

しかしトランプ大統領は、その協定のもとで、メキシコやカナダで作られた製品が、無関税で米国に入ってくる状態を不満に思っている。米国国内での生産、雇用に悪影響を与えるからだ。

USMCAは、その条文で、2026年に見直されることが定められているが、トランプ大統領はより早期の再交渉を望んでいるようだ。関税の脅しを利用してUSMCAの自動車を巡る規則を変更し、カナダとメキシコから米国に自動車工場を移転させることを狙っているとされる。トランプ氏はUSMCAの再交渉を商務長官に指名したハワード・ラトニック氏と、USTR代表に指名したジェミソン・グリア氏に任せる方針だという。

米国に貿易赤字をもたらす国からの輸入を一律追加関税で削減するとともに、米国内で製品を販売する外国企業、あるいは米国企業に対しても、米国国内での生産を強要する、トランプ大統領の「Made in USA」の姿勢は全く揺らいでいない。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。