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半導体、医薬品、鉄鋼などに近く関税を課す考えを表明

トランプ政権は2月1日に、カナダ、メキシコからの輸入品に一律25%の関税を課すとし、中国からの輸入品に一律関税を課す可能性も示唆している。その2月1日が近づく中、トランプ大統領は追加関税導入への積極姿勢を改めて強調している。

トランプ大統領は1月27日に南部フロリダ州で演説し、半導体、医薬品、鉄鋼などに近く関税を課す、と表明した。バイデン前政権は補助金で半導体製造企業の国内誘致を進めたが、トランプ大統領は、企業は自らの資金で米国に工場を建てるべきであると批判した。さらに、「関税を支払うのをやめたいなら米国に工場を建てないといけない」と話し、生産拠点の米国回帰を促す考えを示した。

またトランプ大統領は、鉄鋼、アルミニウム、銅など「軍事に必要な物にも関税を課す」と説明した。トランプ大統領は、政権1期目にも、安全保障上の脅威を理由に輸入される鉄鋼とアルミニウムに追加関税を課した。

トランプ大統領は、実施時期や対象となる国などについて具体的には言及しなかったが、「我々に害をなす外国に関税を課すつもりだ」とし、保護主義的な通商政策をとる傾向がある国として中国、インド、ブラジルを名指しした。ただし、この3か国が対象になるのか、それともすべての国が対象になるのか明らかではない。「とても近い将来に半導体や医薬品などに関税をかけるつもりだ」とも述べている。

一律関税は2.5%よりは大幅に高く設定する考え

他方でトランプ大統領は、すべての国からの輸入品に一律関税を課すことを引き続き検討している、と説明する。「それがどうなるか念頭にあるが、設定はまだだ。だが、わが国を守るために十分なものとなるだろう」と述べている。

この一律関税を巡っては、英紙フィナンシャル・タイムズが27日に、上院で財務長官の就任を承認されたベッセント氏が、2.5%から始めて1か月ごとに同じ割合だけ徐々に引き上げて行く、との案を示していると報じた。

この報道について問われるとトランプ大統領は、「ベッセント氏がそれを支持していると思わず、自分自身も支持しない」と答えた。さらに、2.5%よりは大幅に高く設定したい、との考えを示した。

一律追加関税がもたらす物価上昇など経済への悪影響を懸念しているとみられるベッセント財務長官とトランプ大統領との間の、関税政策を巡る意見の温度差が垣間見られた。

ディープシーク・ショックにも言及

中国の新興企業ディープシーク(DeepSeek)が、低コストの生成AIモデルを開発したことで、足もとの金融市場では米国のAIの優位性に不安が広がっている。米半導体大手エヌビディアの株価が大きく下がり、日本の株式市場にも動揺が広がっている。

ディープシークのAIモデル開発についてトランプ大統領は、低コストで同じ結果を得られるなら「ポジティブに見ている」と予想外にもプラスの評価をしている。さらに、「われわれの産業への警鐘だ」と述べ、競争に集中する必要があると強調した。

競争原理が働くことで、米国のAI技術がより進歩することを期待した発言のように聞こえるが、それは、追加関税で米国企業を守ろうとするトランプ大統領の保護主義的な姿勢と対極にある考え方だ。

トランプ大統領の発言は常に不規則で予想しがたく、個々の発言からその真意を正確に汲み取るのは難しい。
 
(参考資料)
 「トランプ氏「半導体・医薬品で関税」 インドなど念頭か」、2025年1月28日、日本経済新聞電子版
「トランプ氏「半導体に近く関税発動」2.5%より大幅に高い一律関税望む」、2025年1月28日、ブルームバーグ
「米国内での生産目的に関税―トランプ大統領、半導体や鉄鋼に」、20205年1月28日、共同通信ニュース

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。