長めの利下げ停止期間に入ったか
米連邦準備制度理事会(FRB)は、1月28・29日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の据え置きを決めた。FRBは、昨年9月のFOMC以降、3会合連続で合計1.0%ポイントの利下げを実施したが、年明け後は利下げを停止する局面に入った。
声明文は、政策金利据え置きの判断の背景を「雇用とインフレの目標に対するリスクはほぼ均衡している」と説明した。他方、「労働市場の状況は堅調を維持している」一方、「インフレは幾分高止まりしている」と、インフレ率が物価目標水準を引き続き上回っている状況に懸念を示している。
「インフレは幾分高止まりしている」との文言は前回の声明文にも盛り込まれていたが、「2%の目標に向けて進展を示した」という前回の声明文の文言は削除された。この点から、目標値に向けた物価上昇率の低下が遅れることへの警戒はやや高まっており、FRBは利下げ停止をしばらく続けることが予想される。
パウエル議長は記者会見で、「金融政策スタンスが景気を抑制する度合いは以前よりも大幅に弱まっており、経済は強さを維持していることから、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と述べた。この発言を踏まえても、次回3月のFOMCでも利下げは見送られる可能性は高いだろう。
金融市場は年内1回ないしは2回の利下げを織り込んでいるが、1回目の利下げは6月頃との見通しが優勢であり、利下げ停止期間は長く続く見通しとなっている。
声明文は、政策金利据え置きの判断の背景を「雇用とインフレの目標に対するリスクはほぼ均衡している」と説明した。他方、「労働市場の状況は堅調を維持している」一方、「インフレは幾分高止まりしている」と、インフレ率が物価目標水準を引き続き上回っている状況に懸念を示している。
「インフレは幾分高止まりしている」との文言は前回の声明文にも盛り込まれていたが、「2%の目標に向けて進展を示した」という前回の声明文の文言は削除された。この点から、目標値に向けた物価上昇率の低下が遅れることへの警戒はやや高まっており、FRBは利下げ停止をしばらく続けることが予想される。
パウエル議長は記者会見で、「金融政策スタンスが景気を抑制する度合いは以前よりも大幅に弱まっており、経済は強さを維持していることから、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と述べた。この発言を踏まえても、次回3月のFOMCでも利下げは見送られる可能性は高いだろう。
金融市場は年内1回ないしは2回の利下げを織り込んでいるが、1回目の利下げは6月頃との見通しが優勢であり、利下げ停止期間は長く続く見通しとなっている。
FRBはトランプ政権の具体的な経済政策を見守る姿勢
現時点でFRBが最も注視しているのは、トランプ政権がどのような関税、財政、税制、移民の政策を打ち出すか、そしてそれが経済や金融市場に与える影響だ。パウエル議長は、「委員会はどのような政策が実施されるかを見守る姿勢だ」と説明した。そのうえで、「そうした政策が経済にどのような影響を及ぼすのかについて、妥当と考えられる評価を下す前に、政策自体が明確になるのを待つ必要がある」と述べ、まずは具体的な政策を待つ考えを示した。
トランプ政権の金融政策への政治介入も注目点
トランプ大統領は、大統領就任直後に「パウエル議長よりも自分の方が金利について理解している」と述べた。これは、金融政策への政治介入の意図を示すものと理解できるだろう。また、原油価格が下がる中でFRBが利下げするのは当然といった趣旨の発言もしている。
この先、トランプ大統領からFRBへの利下げ要請など政治介入は強まっていくだろう。パウエル議長の任期は2026年5月までであるが、トランプ大統領はパウエル議長を再任しない可能性が高い。他方、トランプ大統領は政権一期目に、パウエル議長の解任を検討したが、法的ハードルが高いためあきらめたとみられる。トランプ大統領がパウエル議長の解任に動く場合には、FRBは法廷闘争に持ち込む可能性がある。
こうしたトランプ大統領による政治的介入も、FRBの政策運営にとって大きな不確定要素の一つだ。FRBの政策が政治介入によって大きくゆがめられる可能性は低いと見ておきたいが、多少の影響を受ける可能性はあるだろう。
FRBの政策決定過程で、トランプ大統領の利下げ要求に配慮してハト派のバイアスがかかる可能性と、FRBが信認を維持するために、トランプ大統領の利下げ要求を意図的に撥ねつけ、政策にむしろタカ派のバイアスがかかる可能性の双方が考えられる。
トランプ政権一期目では、トランプ大統領の利下げ要求をパウエル議長はしばらく撥ねつけたが、ひとたび景気減速が明確になると、比較的速いペースでの利下げに動いたとの印象もある。このように、政治介入の影響は、利下げ転換後に表れることも考えられる。
この先、トランプ大統領からFRBへの利下げ要請など政治介入は強まっていくだろう。パウエル議長の任期は2026年5月までであるが、トランプ大統領はパウエル議長を再任しない可能性が高い。他方、トランプ大統領は政権一期目に、パウエル議長の解任を検討したが、法的ハードルが高いためあきらめたとみられる。トランプ大統領がパウエル議長の解任に動く場合には、FRBは法廷闘争に持ち込む可能性がある。
こうしたトランプ大統領による政治的介入も、FRBの政策運営にとって大きな不確定要素の一つだ。FRBの政策が政治介入によって大きくゆがめられる可能性は低いと見ておきたいが、多少の影響を受ける可能性はあるだろう。
FRBの政策決定過程で、トランプ大統領の利下げ要求に配慮してハト派のバイアスがかかる可能性と、FRBが信認を維持するために、トランプ大統領の利下げ要求を意図的に撥ねつけ、政策にむしろタカ派のバイアスがかかる可能性の双方が考えられる。
トランプ政権一期目では、トランプ大統領の利下げ要求をパウエル議長はしばらく撥ねつけたが、ひとたび景気減速が明確になると、比較的速いペースでの利下げに動いたとの印象もある。このように、政治介入の影響は、利下げ転換後に表れることも考えられる。
利下げ再開時期は不透明
FRBは、昨年9月までの利上げが経済、物価に与える影響、9月以降の利下げの影響、トランプ経済政策、その経済、物価、金融市場への影響、トランプ大統領による金融政策への政治介入の可能性など、実に多くの要因を見極めた上で、次の政策を決める必要がある。
トランプ政権の追加関税、移民規制は、物価の上振れリスクと景気の下振れリスクの双方を同時に高め、スタグフレーションの様相を生じさせることから、金融政策で対応することは難しい。
最終的には、追加関税による物価高は一時的である中、過去の利上げの影響、トランプ政権の政策の影響で景気情勢の下振れリスクが高まることを受けて、FRBは再び本格的な利下げを開始すると見ておきたい。ただし、それがいつになるのかはかなり不確実だ。
ところで、FRBが利下げ停止期間に入ったことは、日本銀行の追加利上げを後押しする材料となろう。そうしたFRBの姿勢が為替市場でドル安円高傾向を生じさせる場合にはなおさらである。
それでも、日本銀行は国内政治圧力を一定程度受けることや、政策金利が中立水準に近づいていき、経済に悪影響を生じさせる可能性を意識し始めることから、追加利上げの実施までには相応の時間を要するだろう。
次の日本銀行の追加利上げは、今年9月になると現時点では見ておきたい。
トランプ政権の追加関税、移民規制は、物価の上振れリスクと景気の下振れリスクの双方を同時に高め、スタグフレーションの様相を生じさせることから、金融政策で対応することは難しい。
最終的には、追加関税による物価高は一時的である中、過去の利上げの影響、トランプ政権の政策の影響で景気情勢の下振れリスクが高まることを受けて、FRBは再び本格的な利下げを開始すると見ておきたい。ただし、それがいつになるのかはかなり不確実だ。
ところで、FRBが利下げ停止期間に入ったことは、日本銀行の追加利上げを後押しする材料となろう。そうしたFRBの姿勢が為替市場でドル安円高傾向を生じさせる場合にはなおさらである。
それでも、日本銀行は国内政治圧力を一定程度受けることや、政策金利が中立水準に近づいていき、経済に悪影響を生じさせる可能性を意識し始めることから、追加利上げの実施までには相応の時間を要するだろう。
次の日本銀行の追加利上げは、今年9月になると現時点では見ておきたい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。