&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

トランプ大統領は日本に対してさらなる防衛費拡大を求めるか

石破首相とトランプ米大統領の日米首脳会談が、2月7日に首都ワシントンで開かれることが決まった。トランプ氏の大統領就任前から日本側は会談の開催を米国側に働きかけていたが、2月1日に米国側から正式な回答があったという。
 
石破首相は会談で、覇権主義的な行動を強める中国や、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対して、日米が連携して対応することを米国に確認したい考えだ。トランプ大統領が北朝鮮を「核保有国」と述べたことの真意を探ることも検討されよう。
 
また石破首相は日米首脳会談に関連して、「尖閣諸島が日米安全保障条約(第5条)の対象であるということをきちんと確認するのは大事なことだ」と発言している。米国の政権が変わるたびに、海洋進出を進める中国への対抗を念頭に、尖閣諸島が、米国が日本を守る義務を負うことを定めた日米安全保障条約・第5条の適用範囲であるかどうかを米国側に確認することが、恒例となっている。ただしこの点は、1月31日の中谷防衛相とヘグセス米国防長官の電話会談で確認されており、日米首脳会談で波乱が生じることはないだろう。
 
トランプ大統領は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に、軍事支出をGDP比5%まで引き上げるよう主張している。日本は、防衛支出のGDP比2%を念頭に、2027年度までに合計43兆円とする防衛力強化を進めている。石破首相はそうした取り組みをトランプ大統領に説明するとみられるが、トランプ大統領が日本に対してさらなる防衛費拡大を求めるかどうかが注目される。

米国からの液化天然ガスなどの輸入拡大方針

経済関係では、トランプ大統領の対日関税政策についてのスタンスを探る重要な機会となる。トランプ大統領は、米国の輸入額で上位3か国であるメキシコ、カナダ、中国からの輸入品に一律関税を課すことを決めている。第4位のドイツを含む欧州連合(EU)に対しては、既に追加関税をかける可能性を強く示唆している。第5位の日本が追加関税の対象とならないように、トランプ大統領に事前に働きかけておくことも、石破首相にとっては、この日米首脳会談の大きな目的だろう。
 
石破首相は、米国からの液化天然ガスなどの輸入拡大の方針を示すとみられる。また、過去5年間で最も多く対米投資をしたのが日本であることなど、日本が米国経済、雇用に貢献していることをアピールするだろう。

日本も早晩、追加関税の対象になる可能性は高い

しかし、米国の輸入額で5位、貿易赤字額で第7位の日本が、米国の追加関税の対象になることを免れるのは難しいのではないか。トランプ大統領は早ければ2月中旬にも半導体、医薬品、鉄鋼、アルミニウム、銅、石油・天然ガスの輸入品に関税を課すと表明している。日本がその対象国に含まれる可能性は十分に考えられる。
 
またトランプ大統領は、すべての国からの輸入品に一律関税を課すことも引き続き検討していると説明している。いずれかの形で、日本も早晩、追加関税の対象になる可能性は高いだろう。
 
日本は米国への自動車輸出を削減することや、米国から牛肉、穀物などの農産物輸入や自動車輸入の拡大を受け入れることを条件に、関税の適用を回避できる可能性もあるかもしれない。しかしそうした条件も、日本経済には打撃となる。いずれにせよ、トランプ大統領の関税政策の下で、日本経済、企業が打撃を受けることを回避するのは難しい情勢だ。
 
ただし、そうした厳しい情勢を日米首脳会談で早期に認識しておくことは、日本政府が、今後の対応を迅速に検討することを可能にする面があるだろう。石破政権は欧州など他国と強く連携して、「米国第一主義」に対抗し、米国の追加関税の世界への拡大を食い止める取り組みに尽力して欲しい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。