厚生労働省は2月5日に2024年12月及び2024年年間の毎月勤労統計を公表した。12月(速報)の実質賃金は、前年同月比+0.6%と前月の同+0.5%に続いて、小幅ながらも2か月連続のプラスとなった。他方で、2024年の実質賃金は、前年比-0.2%と3年連続のマイナスである。
12月の現金給与総額は、前年同月比+4.8%と上振れたが、これは、ボーナスが集中する月であることが影響している。ボーナスや残業代などを含まない所定内賃金は前年比+2.7%、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は同+4.2%であることから、基調的な実質賃金は依然として前年比マイナスとみられる。
1月分では現金給与総額と消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)で計算した実質賃金上昇率は、前年同月比で再びマイナスになる可能性が考えられる。
賃金統計は、サンプル・バイアスの影響、ボーナスや残業代などの影響で振れが大きい。消費者物価指数も、政府のエネルギー補助金、コメの価格、生鮮野菜の価格の変動によって大きく振られる。そのため、この先も実質賃金上昇率は前年比でプラスとマイナスを繰り返す状況が続くだろう。
大局的に見れば、賃金上昇率が物価上昇率にようやく追い付き、両者が概ね同水準にあるのが現状と言える。2022年以降の、賃金上昇率が物価上昇率に大きく遅れ、実質賃金上昇が顕著に下振れる状況は解消されてきている。
しかし今のままでは、実質賃金上昇率はゼロ近傍で推移し、実質賃金の下落にようやく歯止めがかかった状態で安定してしまうことになる。過去数年は、輸入物価高騰を受けて実質賃金は大きく下落した。2022年には前年比1.0%、2023年には前年比2.5%も下落した。実質賃金が下げ止まっても、顕著に増加しないのであれば、大きく低下した実質賃金の水準が固定化してしまい、個人消費はなかなか改善しないだろう。
今年の春闘で連合の賃上げ要求(大企業)は、昨年と同じ5%以上にとどまる。民間の賃上げ予測(含む定期昇給)は4.7%程度と昨年実績の5.1%を下回る。今年は賃金上昇率の加速は期待できないのである。他方で消費者物価上昇率は、米、野菜の価格高騰に加えて、円安の影響で高止まりしている。こうした環境に変化がなければ、実質賃金上昇率は今後もゼロ近傍を続けるだろう。
政府は物価上昇率を上回る賃金上昇率の実現を掲げている。つまりは実質賃金の上昇を目指しているのであるが、それを実現するためには、賃上げよりも円安を食い止め、行き過ぎた円安を修正することで物価上昇率の低下を促す方が近道だ。その際、日本銀行が掲げる2%の物価にこだわらないことが重要だ。
日本銀行は物価目標を柔軟に捉えたうえで金融政策の正常化をさらに進め、政府はその政策姿勢を尊重することが重要だ。それらを通じて円安が緩やかに修正され、物価上昇率が徐々に低下していけば、実質賃金の改善はより明確になり、個人消費の本格回復につながっていくことが期待される。
12月の現金給与総額は、前年同月比+4.8%と上振れたが、これは、ボーナスが集中する月であることが影響している。ボーナスや残業代などを含まない所定内賃金は前年比+2.7%、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は同+4.2%であることから、基調的な実質賃金は依然として前年比マイナスとみられる。
1月分では現金給与総額と消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)で計算した実質賃金上昇率は、前年同月比で再びマイナスになる可能性が考えられる。
賃金統計は、サンプル・バイアスの影響、ボーナスや残業代などの影響で振れが大きい。消費者物価指数も、政府のエネルギー補助金、コメの価格、生鮮野菜の価格の変動によって大きく振られる。そのため、この先も実質賃金上昇率は前年比でプラスとマイナスを繰り返す状況が続くだろう。
大局的に見れば、賃金上昇率が物価上昇率にようやく追い付き、両者が概ね同水準にあるのが現状と言える。2022年以降の、賃金上昇率が物価上昇率に大きく遅れ、実質賃金上昇が顕著に下振れる状況は解消されてきている。
しかし今のままでは、実質賃金上昇率はゼロ近傍で推移し、実質賃金の下落にようやく歯止めがかかった状態で安定してしまうことになる。過去数年は、輸入物価高騰を受けて実質賃金は大きく下落した。2022年には前年比1.0%、2023年には前年比2.5%も下落した。実質賃金が下げ止まっても、顕著に増加しないのであれば、大きく低下した実質賃金の水準が固定化してしまい、個人消費はなかなか改善しないだろう。
今年の春闘で連合の賃上げ要求(大企業)は、昨年と同じ5%以上にとどまる。民間の賃上げ予測(含む定期昇給)は4.7%程度と昨年実績の5.1%を下回る。今年は賃金上昇率の加速は期待できないのである。他方で消費者物価上昇率は、米、野菜の価格高騰に加えて、円安の影響で高止まりしている。こうした環境に変化がなければ、実質賃金上昇率は今後もゼロ近傍を続けるだろう。
政府は物価上昇率を上回る賃金上昇率の実現を掲げている。つまりは実質賃金の上昇を目指しているのであるが、それを実現するためには、賃上げよりも円安を食い止め、行き過ぎた円安を修正することで物価上昇率の低下を促す方が近道だ。その際、日本銀行が掲げる2%の物価にこだわらないことが重要だ。
日本銀行は物価目標を柔軟に捉えたうえで金融政策の正常化をさらに進め、政府はその政策姿勢を尊重することが重要だ。それらを通じて円安が緩やかに修正され、物価上昇率が徐々に低下していけば、実質賃金の改善はより明確になり、個人消費の本格回復につながっていくことが期待される。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。