&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

ラトニック商務長官候補の「国ごとに」の意図は明らかではない

カナダ、メキシコ、中国以外に、トランプ政権はすべての国からの輸入品に一律関税を課すことを検討している。
 
この一律関税について、商務長官候補のハワード・ラトニック氏は1月29日に議会公聴会で、その具体案を語っている。
 
関税の引き上げを巡ってラトニック氏は、トランプ大統領に対して、「国ごと」に全品目対象の関税をかけるべき、と進言したことを明かにした。米経済への打撃を考慮して対象品目を絞るべきだとの意見があることに対して、「巨額の貿易赤字など米国の抱える通商問題を解消するには、国ごとに税率を決め全輸入品に一律関税を課すべき」との考えを示した。
 
この「国ごとに」という表現は、すべての国ではなく特定の国を対象に一律関税を課す考えと読める。その場合には、トランプ大統領が選挙公約としてきたすべての国からの輸入品に一律関税を課すという考えを修正するものとなる。
 
他方で「国ごとに」というのは、一つの国からの輸入品には、品目別に異なる税率を課すのではなく、同一の税率を課すべきである一方、国ごとに異なる単一の税率を設定すべき、との主張を表しているとも解釈できる。ラトニック氏の真意は明らかではない。
 
国ごとに全品目を対象に課す関税については、商務省など関係省庁が各国との貿易赤字の調査を終えた4月以降になるとラトニック氏説明している。

中国に最も高い税率を主張。日本、韓国にも関税を示唆

追加関税は、米国の物価を押し上げることが懸念されているが、これについてラトニック氏は、「高関税を導入する中国やインドはインフレになっていない」として、その懸念はナンセンスと一蹴した。
 
トランプ大統領が大統領選で一律60%超の大幅な関税を主張した中国についてラトニック氏は、「最も高い税率を課すべきだ」と述べた。トランプ政権は2月1日に、中国に10%の追加関税を課す大統領令に署名し、4日に発効したが、政権は今後、さらに高い税率を中国に課していくことを目指す可能性は高いだろう。
 
またラトニック氏は、「同盟国は我々の善良な本性を利用してきた」「日本の鉄鋼、韓国の家電のような場合、我々をただ利用してきた」と主張している。さらに協力する方法として「彼らが我々と協力して、その生産拠点を米国に持ってくる時」と強調した。これは、米国の輸入相手国で上位の日本や韓国に対しても、追加関税を課すことで米国国内での生産拡大を促す考えを示すものだ。
 
トランプ政権で通商政策を主導する商務長官となることが見込まれるラトニック氏が、このように強い保護主義的な考えを持っていることは、日本にとっては大きな脅威だ。
 
(参考資料)
「米看板政策、揺れる方針 関税「国ごとに」進言 商務長官候補、一律と距離」、2025年1月31日、日本経済新聞
「トランプ米大統領:「国ごとに一律関税を」 次期米商務長官 対象品目絞らず」、2025年1月31日、毎日新聞 
「米商務長官候補「韓国・日本が我々を利用…米国で生産するべき」、2025年1月31日、中央日報 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。