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非農業雇用者増加数は事前予想を下回ったが前月の数字が上方修正

米労働省が7日に発表した1月分雇用統計で、非農業雇用者増加数は事前予想を下回ったものの、前月の数字が上方修正され、また失業率は予想比下振れ、賃金上昇率は予想比上振れるなど、全体としては雇用情勢の安定とインフレリスクの残存を示唆した。この統計を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)による次回3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ再開の期待はほぼなくなった。
 
1月の非農業雇用者増加数は前月比+13万4,000人となった。これは、事前予想の17万人程度を下回った。しかし、前月の数字が+25万6,000人から+30万7,000人に上方修正されたことを考慮すれば、ほぼ予想通りの結果だったと言えるだろう。さらに、1月はロサンゼルス近郊の山火事の影響で雇用者増加数が下振れ、この影響を除くと雇用者増加数の実勢はさらに高い可能性も考えられる。米労働統計局 (BLS)は、ロサンゼルス近郊の山火事や他地域での悪天候が1月の雇用に与えた影響は明確でないと説明している。それでも60万人近くが1月は悪天候のために働けず、その数は4年ぶりの多さとなった。
 
また、今回の雇用統計では、事業者調査の年次改定が実施された。2024年3月まで1年間の雇用者増加数は、当初発表より58万9,000人少なくなった。ただし、昨年8月に発表された推計値では、2009年以来の大幅となる81万8,000人の下方修正とされており、それよりは下方修正幅は小さくなった。

金融市場の大きな関心はトランプ政権の関税、移民政策

他方で、家計調査に基づく失業率は1月に4.0%と、前月の4.1%から低下した。事前予想の平均は4.1%だった。また、時間当たり平均賃金は、前月比+0.5%、前年同月比+4.1%と、事前予想を上回った。今回の雇用統計は、雇用情勢は依然安定を維持していることを示す一方、労働需給の逼迫、賃金上昇圧力への懸念が残るものとなった。
 
今回の雇用統計を受けて、FRB高官からは、利下げ方向での金融政策を維持する一方、当面は利下げを見送る姿勢が示された。米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、労働市場は「1年前あるいは2年前ほど過熱していない」ものの、「なお良好だ」と発言した。また、「年末にはフェデラルファンド(FF)金利が小幅に低下していると見込まれる」と述べ、2025年の政策金利は緩やかに低下するとの見通しを示した。
 
また、クーグラーFRB理事は今回の雇用統計を、「軟化も過熱の兆候も見られない健全な労働市場と整合的だ」とした。また、今後の金融政策判断に大きな影響を与えるトランプ政権の経済政策とその経済への影響については、「かなりの不確実性がある」と語った。
 
今回の雇用統計を受けて、FRBの利下げ期待は幾分後退し、それを受けて、長期金利の上昇、ドル高、株価下落などの反応が米国金融市場で生じた。しかし全体としては大きな波乱は生じていない。
 
金融市場の大きな関心事は、トランプ政権の関税政策にある。さらに、移民の流入規制強化や不法移民の国外退去が、今後の雇用統計にどのように影響してくるかが注目される。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。