2月7日に開かれた日米首脳会談後の記者会見でトランプ米大統領は、唐突に、貿易相手国と同様の関税を課す「相互関税」を、「来週の月曜日か火曜日に発表するつもりだ」と表明した。
トランプ大統領は大統領選挙期間中から、米国よりも高い関税率を課している国は不公平であると批判し、「トランプ相互貿易法」の制定を公約に掲げていた。トランプ大統領や側近らが今まで名指ししてきた国は、中国、インド、トルコ、ブラジルなどだ。
この相互関税が具体的にどのようなものであるかは明らかではないが、大きく分けて3種類が考えられるのではないか。第1は、米国の貿易相手国が、ある製品について、米国がその国からの輸入品に適用しているよりも高い税率を米国からの輸入品に適用している場合、米国がその輸入品の税率を引き上げて両者を同じ税率にすることだ。
一般に、新興国は国内の産業を育成する観点から、先進国から輸入する工業製品に高い関税率を課すことが容認される。しかし「米国第一主義」のもと、トランプ政権は新興国にも関税率を等しくすることを求めている可能性が考えられる。
この場合対象となりやすいのは新興国であり、大統領や側近らが今まで名指ししてきた国が、中国、インド、トルコ、ブラジルなどであることは、その可能性を示唆している。
このケースでは、米国の相互関税は、世界貿易機関(WTO)の報復関税制度を参考にしているようにも見える。WTOの関税定率法(第6条)は、不当に追加関税を課された場合には、原則としてWTOの承認を受けて、その追加関税率を上限に割増関税を課すことが認められる。
ただし、米国と新興国との間の貿易関係は競争的ではなく補完的であり、新興国が米国から輸入している製品を、米国が当該国から多くは輸入していない傾向が考えられる。従ってこの場合には、トランプ政権が相互関税をかけても、その規模は小さく、当該国及び世界経済への影響は限定的だ。
第2は、米国の貿易相手国が、ある製品について米国よりも高い関税率をかけている場合、米国がその国からの別の輸入品に、その分、追加関税を課すというものだ。例えば、ブラジルが、国内自動車メーカーを守るために米国製自動車に高い関税を課している場合、米国はブラジルから輸入するコーヒー豆の関税を引き上げる、といったものだ。
この場合には、日本も相互関税の対象となることを警戒しなければならない。日本は工業製品については米国からの輸入品への関税はほぼゼロであることから、相互関税の対象にはならない可能性が高いが、牛肉、穀物など農業分野ではなお関税が残されている。それを理由に、対米自動車輸出に高い関税率が課される可能性もあり得よう。
第3は、ある国が米国から輸入する製品全体の平均関税率が、米国がその国から輸入する製品全体の平均関税率よりもかなり高い場合には、トランプ政権がその国に一律関税を課すというものだ。この場合、相互関税は、トランプ政権が検討を続けているすべての国からの一律関税策の一部を成すことになるのではないか。
以上3つのうち、最も可能性が高いのは第1だろう。その場合、世界経済に与える影響は限定的であり、また、日本は関税の対象とならない可能性が高い。しかし、実際の具体策は、トランプ大統領が2月10日あるいは11日に発表するまで分からないのが実情であり、それまでは金融市場の警戒は解けない。
トランプ大統領は大統領選挙期間中から、米国よりも高い関税率を課している国は不公平であると批判し、「トランプ相互貿易法」の制定を公約に掲げていた。トランプ大統領や側近らが今まで名指ししてきた国は、中国、インド、トルコ、ブラジルなどだ。
この相互関税が具体的にどのようなものであるかは明らかではないが、大きく分けて3種類が考えられるのではないか。第1は、米国の貿易相手国が、ある製品について、米国がその国からの輸入品に適用しているよりも高い税率を米国からの輸入品に適用している場合、米国がその輸入品の税率を引き上げて両者を同じ税率にすることだ。
一般に、新興国は国内の産業を育成する観点から、先進国から輸入する工業製品に高い関税率を課すことが容認される。しかし「米国第一主義」のもと、トランプ政権は新興国にも関税率を等しくすることを求めている可能性が考えられる。
この場合対象となりやすいのは新興国であり、大統領や側近らが今まで名指ししてきた国が、中国、インド、トルコ、ブラジルなどであることは、その可能性を示唆している。
このケースでは、米国の相互関税は、世界貿易機関(WTO)の報復関税制度を参考にしているようにも見える。WTOの関税定率法(第6条)は、不当に追加関税を課された場合には、原則としてWTOの承認を受けて、その追加関税率を上限に割増関税を課すことが認められる。
ただし、米国と新興国との間の貿易関係は競争的ではなく補完的であり、新興国が米国から輸入している製品を、米国が当該国から多くは輸入していない傾向が考えられる。従ってこの場合には、トランプ政権が相互関税をかけても、その規模は小さく、当該国及び世界経済への影響は限定的だ。
第2は、米国の貿易相手国が、ある製品について米国よりも高い関税率をかけている場合、米国がその国からの別の輸入品に、その分、追加関税を課すというものだ。例えば、ブラジルが、国内自動車メーカーを守るために米国製自動車に高い関税を課している場合、米国はブラジルから輸入するコーヒー豆の関税を引き上げる、といったものだ。
この場合には、日本も相互関税の対象となることを警戒しなければならない。日本は工業製品については米国からの輸入品への関税はほぼゼロであることから、相互関税の対象にはならない可能性が高いが、牛肉、穀物など農業分野ではなお関税が残されている。それを理由に、対米自動車輸出に高い関税率が課される可能性もあり得よう。
第3は、ある国が米国から輸入する製品全体の平均関税率が、米国がその国から輸入する製品全体の平均関税率よりもかなり高い場合には、トランプ政権がその国に一律関税を課すというものだ。この場合、相互関税は、トランプ政権が検討を続けているすべての国からの一律関税策の一部を成すことになるのではないか。
以上3つのうち、最も可能性が高いのは第1だろう。その場合、世界経済に与える影響は限定的であり、また、日本は関税の対象とならない可能性が高い。しかし、実際の具体策は、トランプ大統領が2月10日あるいは11日に発表するまで分からないのが実情であり、それまでは金融市場の警戒は解けない。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。